不倫関係にある女性に対する包括遺贈が公序良俗違反となるか
(昭和61年11月20日最高裁)
事件番号 昭和61(オ)946
この裁判では、不倫関係にある女性に対する包括遺贈が公序良俗(社会的道義や社会的秩序)に反するかどうかが争点となりましたが、最高裁判所はその遺贈が公序良俗違反ではないと判断しました。
以下がその理由の要約です。
最高裁判所の判断のポイント
- 不倫関係の背景と遺言の意図:
亡Dは妻A1がいるにもかかわらず、被上告人と約7年間、不倫関係を続けていたが、遺言は不倫関係の維持継続を目的とするものではなかった。
遺言の目的は、生活の多くを亡Dに依存していた被上告人の生活を保全するためであり、社会的に許容されるものと認められた。
- 夫婦関係の実情:
亡Dと妻A1の間の夫婦関係は昭和40年頃から交流が希薄となり、夫婦としての実体はある程度失われていた。
したがって、遺贈がA1の夫婦関係を直接侵害するものではないと判断された。
- 遺言の内容と相続人の生活への影響:
遺言は亡Dの妻A1、子A2、被上告人に対して、それぞれ全遺産の3分の1ずつを遺贈する内容であり、これは法定相続分に沿ったものである。
遺言の内容が相続人(A1およびA2)の生活基盤を脅かすものではないとされ、公序良俗に反するとは言えないと判断された。
- 社会通念上の許容性:
被上告人に対する遺贈が不倫関係の維持のためではなく、被上告人の生活を保全するためであった点を重視し、その遺言が民法第90条(公序良俗違反による法律行為の無効)に該当しないとした。
このように、最高裁は、不倫関係にある女性への包括遺贈が公序良俗に反する場合は、その遺贈が不倫関係の維持継続を目的としているかどうか、または相続人の生活を著しく脅かすかどうかといった点を考慮すべきであり、本件ではそのような要件を満たさないと判断しました。
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