この裁判では、土地所有者が物権的請求権を行使して、建物の収去と土地の明渡しを請求する場合の適切な相手方について、最高裁判所が判断を示しています。
主なポイント
- 事案の背景:
土地所有者(甲)は、その土地上に存在する建物を所有する者(乙)に対し、建物収去と土地明渡しを請求しました。
しかし、乙はその建物を丙に譲渡していたものの、建物の登記名義は乙のままでした。
- 最高裁の見解:
土地所有権に基づく物権的請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには、現実に建物を所有してその土地を占拠している者を相手方とするべきであるとしました。
したがって、建物の所有者(乙)がその建物を第三者(丙)に譲渡し、所有権を確定的に失った場合、その後に乙の意思に反して乙名義で所有権取得の登記がされても、乙は既に土地を占有していないので、土地所有者からの請求に応じる義務はないとしています。
また、建物の所有名義人(乙)が実際には建物を所有していない場合も、単に名義があるだけでは土地所有者に対して建物収去や土地明渡しの義務を負わないとしました。
- 例外的な場合:
しかし、建物所有者が自らの意思で所有権取得の登記を行い、その登記を保有している場合には、たとえその後建物を他人に譲渡しても、その登記名義を保有している限り、建物所有者は土地所有者に対して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできません。
この理由として、建物は土地を占有するものであり、建物の所有者が土地所有者に対して占有を継続しているという関係に立つためです。
- 理由付け:
もし登記の有無に関わらず「実質的な所有者」が建物収去・土地明渡しの義務者であるとするならば、土地所有者はその実質的な所有者を特定するための困難に直面し、相手方が容易に所有権の移転を主張して義務を免れるという不合理が生じる可能性があります。
一方で、真に所有権を譲渡した場合は、その旨の登記を行うことはさほど難しくないため、不動産取引の社会的慣行にも合致します。
したがって、登記名義を維持しつつ、所有権の喪失を主張して義務を免れようとすることは、信義に反し、不公平であるとされます。
- 結論
このこの裁判の結論として、建物の所有者が建物収去・土地明渡しの義務者となるのは、現実に建物を所有し、その土地を占有している者であり、単に登記名義だけを保有している者ではないという判断がなされました。
また、登記を自己名義にしている限り、その建物の所有権喪失を主張して義務を免れることは許されないとしています。
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