法定地上権が成立しないとされた事例
(平成6年12月20日最高裁)
事件番号 平成2(オ)663
この裁判では、地上建物の共有者の一人にすぎない土地共有者の債務を担保するため、土地共有者の全員が各持分に共同して抵当権を設定した場合に、法定地上権が成立するかについて、最高裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
- 法定地上権の成立の要件について:
共有者はそれぞれ独立した持分を有しており、地上権の設定は、共有者全員に対する負担となります。
そのため、土地共有者の一人についてのみ法定地上権が成立するためには、他の共有者が持分に基づく土地に対する使用収益権を放棄し、その土地共有者の処分に全面的にゆだねていたといった「特段の事情」が必要とされます。
- 本件での事実関係の考察:
本件では、土地の共有者全員が共同して抵当権を設定しましたが、そのうちの一人である被上告人B1の債務を担保するものでした。
他の共有者らは、B1の親族であるという事実は認められますが、この事実だけでは、法定地上権の発生を事前に容認していたとはいえないとされました。
- 法定地上権の成立を認めない理由:
法定地上権の成否が、第三者(競落人など)や後順位抵当権者などの利害に大きく影響することを考慮し、「土地共有者間の人的関係のような事情」は、登記簿に公示されるものではなく、外部の第三者には知り得ないものであるため、このような事情に基づいて法定地上権の成否を決定することは相当ではないとされました。
特に、他の共有者が法定地上権の成立を容認していたと認められる「特段の事情」がない場合、法定地上権は成立しないとされています。
- 法定地上権の成立を認めることが不相当な理由:
も し、九名の建物共有者のうちの一人にすぎない土地共有者の債務を担保するために他の土地共有者が共同して土地の各持分に抵当権を設定したというだけで法定地上権の成立を認めると、共有者の権利が強力な地上権に転化し、土地の売却価格を著しく低下させる可能性があり、このような結果は、土地共有者の通常の意思に反する。
また、このような結果は、第三者(一般債権者、後順位抵当権者、競落人など)の期待や予測に反し、法的安定を損なうものであるため、許されないとされています。
- 結論
最高裁判所の見解では、土地共有者の一人の債務を担保するために全員が各持分に共同して抵当権を設定した場合でも、他の共有者が法定地上権の発生を容認していたという「特段の事情」がない限り、法定地上権は成立しないと判断されました。
この判断は、土地共有者間の通常の意思や第三者の期待・予測を保護し、法的安定を図るためのものであるとされています。
コメントをお書きください