この裁判(平成8年11月12日最高裁判所判決、事件番号平成7(オ)228)では、他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合について、最高裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解の要点
- 他主占有者の相続人による取得時効の主張:
他主占有者(他人のために占有している者)の相続人が、独自の占有に基づいて取得時効(一定期間の占有により権利を取得する制度)の成立を主張する場合、その占有が「所有の意思に基づくものである」と認められるためには、取得時効の成立を争う相手方ではなく、相続人自身が、その事実的支配が外形的かつ客観的に見て独自の所有の意思に基づくものであることを証明する必要があると解されます。
- 新たな事実的支配の開始による占有の性質の変更:
この場合、相続人が新たに事実的支配を開始することによって、従来の占有の性質が変更されたと考えられます。
この変更の事実は、取得時効の成立を主張する者が立証する必要があります。
また、この場合、相続という占有取得の原因事実だけでは、相続人の「所有の意思」の有無を決定することはできません。
- 具体的事実関係の判断:
本件では、上告人(A1とA2)は、前所有者Fの死亡後、土地建物についてFが生前にEから贈与を受けたと信じて、管理・使用を続けてきました。
上告人A1は、固定資産税を支払い、賃料を徴収して生活費に充てていたことから、土地建物に対する事実的支配を行っていました。
また、この支配はE及びその法定相続人である妻子らも認識しており、異議を述べることもなかったことから、上告人らの支配が独自の所有の意思に基づくものであると認められると判断されました。
- 判決の結論:
以上の各事情に照らして、上告人らの本件土地建物についての事実的支配は、外形的かつ客観的に見て独自の所有の意思に基づくものであると解されます。
したがって、相続人が新たに取得した占有が独自の所有の意思によるものであることを立証することで、取得時効の成立を主張することが認められました。
- 裁判の意義
この判決は、他主占有者の相続人が独自の占有に基づいて取得時効を主張する場合、その占有が「所有の意思に基づくものである」と認められるための条件を明確にしました。
具体的には、相続人自身がその占有が独自の所有の意思に基づくことを証明する必要があるという点を強調しており、占有の性質が相続を通じて変更された場合の法的立証責任について重要な判断を示しています。
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