この裁判(平成8年10月31日最高裁判所判決、事件番号平成3(オ)1380)では、共有物の分割において「全面的価格賠償の方法」による共有物分割が許されるかどうかについて、最高裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解の要点
- 民法258条2項の原則と例外:
民法258条2項は、共有物分割の方法として、現物分割を原則としています。
しかし、現物での分割が不可能である場合や、現物で分割することにより著しく価格が下がる恐れがある場合には、競売による分割ができると規定されています。
- 共有物分割の本質:
共有物の分割は民事訴訟の手続きにより判断されるが、その本質は非訟事件(非対抗的な法律手続き)であり、裁判所の適切な裁量権の行使によって、共有者間の公平を保ちながら、当該共有物の性質や共有の実状に適した妥当な分割を実現することを目的としています。
したがって、民法258条2項の規定は、すべての場合に分割方法を現物分割または競売のみに限定するものではないと解されています。
- 全面的価格賠償の方法の許可:
裁判所は、共有物分割の申立てを受けた場合、現物分割の際に持分の価格以上の現物を取得する共有者に対して、超過分の対価を支払わせることで過不足の調整を行うことができます。
さらに、共有物の性質や形状、共有関係の発生原因、共有者の数や持分の割合、共有物の利用状況、分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望およびその合理性の有無などを総合的に考慮し、共有者の一部に特定の者が当該共有物を取得するのが相当であり、その価格が適正に評価され、取得者に支払能力がある場合には、他の共有者に持分の価格を賠償する方法(全面的価格賠償の方法)による分割も許されるとしました。
- 判決の結論:
このような「全面的価格賠償の方法」による分割は、共有物を共有者のうちの一人の単独所有とするか、数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させることで行われます。
共有者間の実質的公平を損なわないと認められる特段の事情がある場合には、この分割方法が許されると判断されています。
- 裁判の意義
この判決により、共有物の分割における「全面的価格賠償の方法」が法的に認められる場合があることが確認されました。
共有物分割において、裁判所が柔軟に判断し、共有者間の公平性を確保するための適切な方法を選択できることが強調されています。
これにより、現物分割や競売による分割が現実的でない場合でも、裁判所は具体的な事案に応じた解決策を提供できるようになりました。
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