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法定地上権の成否について

 この裁判(平成9年2月14日最高裁判所判決、事件番号平成7(オ)261)では、法定地上権の成否について最高裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解の要点

  • 法定地上権の成否の判断基準:

 土地及び地上建物に共同抵当権が設定された後に、その建物が取り壊され、同じ土地に新しい建物が建築された場合、次のような条件が満たされない限り、新しい建物のために法定地上権は成立しないと解されます:

 

  • 新建物の所有者が土地の所有者と同一である。

 新建物が建築された時点での土地の抵当権者が、新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたこと。

 

判決の理由:

 土地及び地上建物に共同抵当権が設定されている場合、抵当権者は土地及び建物全体の担保価値を把握しているため、抵当権が設定された建物が存在する限り、その建物のために法定地上権が成立することを認めます。

 

 しかし、建物が取り壊された場合、抵当権者は土地を更地としての担保価値を把握することが合理的とされます。

 新しい建物のために法定地上権が成立することを認めると、抵当権者が想定していた土地の担保価値が法定地上権の価額相当分だけ減少し、予期しない損害を被る結果になるからです。

 これは、抵当権設定当事者の合理的意思に反します。

  • 公益的要請と合理的意思の関係:

 新建物を保護するという公益的な要請がある場合もありますが、それが抵当権設定当事者の合理的意思に反する場合には、公益的要請を優先するべきではないとしています。

 

  • 大審院判決の変更:

 大審院昭和13年(オ)第62号同年5月25日判決(民集17巻12号1100頁)は、この見解と抵触する限度で変更されるべきものとされています。

  • 裁判の意義

 この判決は、土地と建物に共同抵当権が設定されている場合の法定地上権の成否について、建物が取り壊された後の新しい建物については、特段の事情がない限り法定地上権が成立しないとする基準を示しました。

 

 これにより、抵当権者の権利保護と合理的な担保価値の把握を優先する一方で、新しい建物に対する法定地上権の成立は厳格に制限されています。

 

 この判断は、抵当権の設定時における当事者の合理的な意思に基づくものであり、既存の判例を変更する形で示された重要な判例です。