この裁判(平成24年3月16日最高裁、平成22(受)336)は、不動産の取得時効が完成した後に、所有権移転登記がされないまま第三者が原所有者から抵当権の設定を受け、その抵当権設定登記が行われた場合に関するものです。
最高裁判所は、こうした場合に再度取得時効が完成したときの抵当権の取り扱いについて見解を示しました。
最高裁判所の見解
- 取得時効の完成後に設定された抵当権と再度取得時効の関係:
不動産の取得時効が一度完成した後に、所有権移転登記がされないまま、原所有者から第三者に対して抵当権が設定され、登記が行われた場合、時効取得者(占有者)がその後も必要な期間占有を継続したとします。
この場合、占有者が抵当権の存在を明確に認識し、容認していたなど、抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り、占有者は不動産を時効取得し、その結果として抵当権は消滅すると解するのが相当であるとされています。
- 理由の根拠:
時効取得制度の趣旨に照らせば、取得時効が完成した後に第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて登記したとしても、占有者がその後も長期間にわたって占有を継続した場合、抵当権の負担のない所有権を取得できないと解するのは適切ではないとされています。
また、不動産の取得時効が完成した後に所有権移転登記がされないまま第三者に譲渡され、その登記が行われた場合、占有者がその後も占有を継続した場合には、占有者は登記なしで時効取得を第三者に対抗できるとされています。
同様に、取得時効が完成した後に抵当権が設定され、登記がされた場合も、占有者は抵当権による制限を受けるものの、長期間の継続的な占有が続く限り、その取得した所有権に対して抵当権の存在を容認していない限り、その抵当権は消滅するとされています。
- 不均衡の回避:
取得時効の完成後に所有権を得た第三者が、占有者が引き続き占有を継続した場合に所有権を失うことがあるのに対し、同じ状況で取得時効の完成後に抵当権の設定を受けた第三者だけが保護されるのは不均衡であると判断されました。
- 結論
最高裁の判断では、不動産の取得時効が完成した後に抵当権が設定され、その後再度の取得時効が完成した場合、占有者がその抵当権の存在を容認していた特段の事情がない限り、時効取得によって抵当権は消滅すると解されています。
このような判断は、時効制度の趣旨に基づき、長期間の継続的な占有を保護するためのものです。
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