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土地と建物が異なる所有者に帰属する場合

 この裁判(平成19年7月6日最高裁、平成18(受)1398)は、法定地上権の成否に関するものです。

 特に、土地と建物が異なる所有者に帰属する場合に、どの時点を基準として法定地上権が成立するかについて最高裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

  • 法定地上権の成立要件:

 土地を目的とする先順位の甲抵当権と後順位の乙抵当権が設定された後、甲抵当権が設定契約の解除により消滅し、その後乙抵当権の実行により土地とその上の建物の所有者が異なる場合、甲抵当権の設定時には土地と建物が同一の所有者に属していなかったとしても、乙抵当権の設定時に土地と建物が同一の所有者に属していたときは、法定地上権が成立すると解するのが相当であるとしています。

 

 理由の根拠:

  • 乙抵当権者の認識と予測:

 乙抵当権者としては、甲抵当権が存続したまま目的土地が競売された場合、法定地上権は成立しないと予測していた可能性があります。

 

 しかし、抵当権は被担保債権の担保としてのみ存続が予定されており、甲抵当権が被担保債権の弁済や設定契約の解除により消滅することもあり得ると予測すべきです。

 

 乙抵当権者は、甲抵当権が消滅した場合の順位上昇の利益と、法定地上権成立の不利益を考慮し、担保余力を評価すべきであったと考えられます。

 

 そのため、甲抵当権が消滅した後に行われる競売によって法定地上権が成立することを認めても、乙抵当権者に不測の損害を与えるものではありません。

  • 競売前に消滅した甲抵当権の考慮不要:

 甲抵当権は競売前に既に消滅しているため、競売による法定地上権の成否を判断する際に甲抵当権者の利益を考慮する必要はありません。

 

 民法388条が規定する「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する」という要件(同一所有者要件)を甲抵当権の設定時にさかのぼって判断する必要はないとされています。

  • 民法388条の適用について:

 民法388条は、土地およびその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地または建物に抵当権が設定され、抵当権の実行により所有者が異なる場合に法定地上権が設定されたものとみなす旨を定めています。

 

 ここでの「同一所有者要件」が満たされる時点は、競売によって消滅する最先順位の抵当権である乙抵当権の設定時において判断されるべきであり、競売前に消滅していた甲抵当権ではないと解されます。

  • 原判決の評価:

 原判決が引用した平成2年1月22日の第二小法廷判決は、競売により消滅する複数の抵当権が存在する場合、その中で最先順位の抵当権の設定時を基準に「同一所有者要件」の充足性を判断すべきであるとしています。

 

 しかし、競売前に消滅した抵当権を同列に考えることはできないとされています。

  • 結論

 最高裁の判断では、土地と建物の所有者が異なる状態になった場合でも、法定地上権の成立要件としての「同一所有者要件」は、最先順位の抵当権(乙抵当権)の設定時に満たされていれば十分であると解されました。

 

 この判決は、競売による法定地上権の成立において、抵当権の消滅や設定の時点が重要な役割を果たすことを示しています。