この裁判(平成18年1月17日最高裁、平成17(受)144)は、不動産の取得時効が成立した後に、第三者(乙)がその不動産の譲渡を受け、所有権移転登記をした場合に、乙が「背信的悪意者」に該当するかどうかについての最高裁判所の見解を示しています。
最高裁判所の見解
- 背信的悪意者の判断基準:
甲が時効取得した不動産について、取得時効の完成後に乙がその不動産を譲り受け、所有権移転登記を行った場合で、乙が不動産の譲渡を受けた時点で、甲が多年にわたりその不動産を占有している事実を認識しており、かつ甲の登記の欠缺(けんけつ、登記がないこと)を主張することが信義に反するものと認められる事情があるとき、乙は「背信的悪意者」に該当するとされます。
- 取得時効の認識について:
取得時効の成否は、その要件が充足されているかどうかを容易に認識・判断できない性質を持つため、乙が甲の取得時効の成立要件をすべて具体的に認識していなくても、「背信的悪意者」と認められる場合があります。
ただし、その場合でも少なくとも乙が甲による多年にわたる占有の継続の事実を認識している必要があります。
裁判のポイント
- 「背信的悪意者」とは:
「背信的悪意者」とは、特定の行為や立場が信義則(信義誠実の原則)に反するため、法律上保護されるべきでない者のことを指します。
乙が不動産の譲渡を受けた際に、甲がその不動産を長期間占有していたことを知っており、かつその登記の欠缺を主張することが信義に反するような特段の事情があれば、乙は「背信的悪意者」と判断されることになります。
- 時効取得後の譲受人の地位:
本判決では、乙が甲の多年にわたる占有を認識しつつも、その上で所有権を主張することが信義に反すると認められる場合、乙は「背信的悪意者」とされ、甲の取得時効に基づく所有権の取得が妨げられないという趣旨です。
- まとめ
本件の最高裁判所の見解は、不動産の取得時効が成立した後に、第三者がその不動産を譲り受け、所有権移転登記を行った場合でも、特に信義に反する事情がある場合には、その第三者は「背信的悪意者」として保護されないことを示しています。
具体的には、第三者が甲の占有の継続を認識している場合、時効取得の要件を具体的に全て認識していなくても、信義に反する行為をした者として扱われることがあるという判断です。
コメントをお書きください