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売買契約が解除された場合の原状回復義務

 この裁判(昭和40年6月30日最高裁、昭和38(オ)1294)は、売買契約が解除された場合の原状回復義務と保証人の責任について最高裁判所が見解を示したものです。

 

最高裁判所の見解

  • 原状回復義務の性質:

 売買契約が解除されると、その効果は遡及効を生じます。

 つまり、契約が最初から存在しなかったかのような状態に戻すことが求められます。

 

 契約の解除による原状回復義務は、契約自体によって生じた本来の債務(契約で定められた債務)が解除により消滅した結果として発生する別個独立の債務であり、本来の債務に従属するものではありません。

 

 したがって、売買契約の当事者(売主または買主)のために立てられた保証人は、特別な特約がない限り、この原状回復義務の履行について責任を負うべきではない、という判例があります。

  • 保証人の責任についての考え方:

 しかし、特定物の売買契約において売主のための保証人が立てられた場合、通常、その保証は契約から直接生じる売主の債務について保証するというよりも、むしろ、売主が債務不履行をした場合に買主に対して負うべき損害賠償義務などについて責任を負う趣旨であると解されるべきです。

 

 したがって、保証人は、売主が債務不履行により買主に対して負う損害賠償義務だけでなく、特に反対の意思表示がない限り、売主の債務不履行によって契約が解除された場合における原状回復義務についても保証の責任を負うものと認められるのが相当です。

  • 判例の変更:

 以上の理由から、従来の判例(特約がない限り保証人は原状回復義務を負わないとする判例)は、この趣旨において変更されるべきであると判断されました。

  • まとめ

 最高裁判所は、売買契約が解除された場合の原状回復義務について、保証人が責任を負う範囲を明確にし、従来の判例を変更する見解を示しました。

 

 具体的には、特に反対の意思表示がない限り、売主の債務不履行による契約解除に伴う原状回復義務についても保証人が責任を負うべきとされました。

 

 これは、保証人の責任が契約の解除によっても消滅せず、むしろ契約に基づく全体的な義務の履行に関与するものとして捉える考え方です。