この裁判(昭和41年4月27日最高裁、昭和37(オ)18)は、他人名義の建物登記と借地権の対抗力に関する最高裁判所の見解を示したものです。
最高裁判所の見解
- 建物保護法第1条の解釈:
建物保護法第1条は、建物の所有を目的とする土地の賃借権について、賃借人がその土地上に登記された建物を所有している場合、土地賃貸借契約について登記がなくても、これを第三者に対抗できることを定めています。
この規定の趣旨は、土地の取引をする者が地上建物の登記名義を見て、その名義人が土地賃借権を有していると推測できる点にあります。
- 対抗要件としての登記:
建物を所有する賃借権者が、自らの名義で登記した建物を所有することにより、初めてその賃借権を第三者に対抗できるものと解釈すべきです。
したがって、賃借権者が自らの意思に基づいて他人名義で建物の保存登記をした場合には、その賃借権を第三者に対抗することはできません。
他人名義の建物の登記では、自己の建物の所有権を第三者に対抗することができず、自己の建物の所有権を対抗する登記があることを前提とする建物保護法第1条の保護を受けるに値しないからです。
- 本件における判断:
本件では、被上告人が自らの意思で長男Dの名義で建物の保存登記を行ったとされています。
たとえDが被上告人の未成年の長男であって、共同で建物を利用していたとしても、その名義での登記は被上告人の名義での保存登記とはみなされません。
よって、被上告人は登記された建物を有するものとして、建物保護法に基づき土地賃借権を第三者に対抗することは許されないと判断されました。
- 登記制度の目的と第三者保護:
登記制度は物権変動を公示する方法であり、取引上の第三者の利益を保護するためのものです。
取引上の第三者は登記簿の記載により権利者を推測するのが原則です。
本件のように他人名義(D名義)の登記簿の記載によっては、被上告人が建物所有者であることを推知することはできません。
そのため、他人名義の登記をもって建物保護法による土地賃借権の対抗力を認めることは、第三者の利益を害するものであり、是認されません。
- 無効登記の対抗力:
登記が対抗力を持つためには、登記が実質上の権利状態と符号するものでなければなりません。
実質上の権利者でない他人名義の登記は、実質上の権利と符合しないものであり、無効の登記であって対抗力を生じません。
本件において、Dを名義人とする登記と真実の権利者である被上告人の登記とは同一性を認められないため、登記の更正によってその瑕疵を治癒することも許されません。
- まとめ
最高裁判所は、本件において被上告人が長男D名義の建物の保存登記を行ったことにより、建物保護法に基づいて自己の賃借権を第三者(上告人)に対抗することはできないと判断しました。
これは、登記制度の目的が取引の安全と第三者の利益保護にあること、他人名義の登記が実質的な権利状態と符号しないため、無効であるとの考えに基づいています。
コメントをお書きください