· 

所有権に基づく返還請求と民法708条の適用

 昭和45年10月21日の最高裁判決(昭和41(オ)436号事件)では、所有権に基づく返還請求と民法708条の適用についての見解が示されました。

 

最高裁判所の見解

 

 この裁判では、未登記の建物に対する贈与が公序良俗に反するため無効であり、その建物の引渡しが不法の原因に基づくものであるという判断がなされました。

 

 また、贈与者の債務はその引渡しによって履行が完了したと解され、この引渡しが民法708条本文にいう「給付」に該当するものとされました。

  • 民法708条について

 民法708条は、「不法原因給付」の原則を定めており、不法な原因に基づいて行われた給付については、その返還請求を認めない趣旨が規定されています。

 

最高裁は以下の見解を示しました。

  • 贈与が無効である場合の所有権の移転:

 贈与が公序良俗に反し無効である場合、建物の所有権は贈与によって受贈者に移転しないと解すべきである。

  • 不法原因給付の場合の所有権の帰属:

 たとえ贈与が無効であり、その贈与による所有権の移転が認められない場合でも、贈与に基づく履行行為が民法708条の「不法原因給付」に該当する場合には、その建物の所有権は受贈者に帰属するものと解するのが相当であるとされました。

  • 反社会的行為に対する制限:

 民法708条は、反社会的な行為を行った者に対して、その行為の結果の復旧を求めることを許さない趣旨を持つ規定であるため、給付者は不当利得に基づく返還請求をすることができないだけでなく、目的物の所有権が自己にあることを理由にその返還を求めることも許されないとされました。

  • 所有権の帰属と法律関係の明確化:

 贈与者が給付した物の返還を請求できない場合、その反射的効果として目的物の所有権は贈与者の手を離れ、受贈者に帰属するものと解するのが最も実質に適合し、法律関係を明確にするものとされています。

  • 結論

 この判決において、最高裁判所は、不法原因給付に関する民法708条の規定を適用し、公序良俗に反する無効な贈与による給付が行われた場合、贈与者がその返還を請求できないことから、その反射的効果として目的物の所有権が受贈者に帰属するとしました。

 

 この見解により、法律関係の明確化が図られました。