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民法167条1項に基づく債権の消滅時効

時効援用の効力

(昭和61年3月17日最高裁)

事件番号  昭和59(オ)211

この裁判において最高裁判所は、以下のような見解を示しました。

 

  • 時効援用の確定性:

 民法167条1項に基づく債権の消滅時効は「10年間行使しないことにより消滅する」とされていますが、この消滅の効果は確定的に生じるものではありません。

 

 消滅時効の効果は、当事者が時効を援用したときに初めて確定的に生じるとされています。

  • 非農地化と時効援用の関係:

 農地の売買において、買主が売主に対して県知事に対する許可申請協力請求権を持つ場合、この請求権の消滅時効も同様に、時効期間の経過だけでは確定的に消滅しません。

 

 売主が時効を援用したときに初めて消滅の効果が確定します。

 

 しかし、時効の援用がされる前に、当該農地が非農地化した場合、その時点で売買契約は効力を生じ、買主に所有権が移転すると解されます。

 

 そのため、売主がその後に時効を援用しても、その効力は認められないとしました。

  • 本件の具体的な事実関係:

 本件において、被上告人らが時効援用を行ったのは昭和51年2月9日に提起した訴訟の訴状においてであり、それに対して上告人らは、農地が昭和46年8月5日以降に非農地化したため、売買契約は効力を生じ、所有権が買主に移転したと主張しました。

 

 この主張が認められる場合、本件の許可申請協力請求権の消滅時効の問題は生じず、原判決には民法145条、167条1項の解釈と適用の誤りがあり、審理不尽・理由不備の違法があると判断されました。

  • 結論:

 以上の理由から、原判決は破棄され、上告人らの主張について再審理を行うため、事件は原審に差し戻されることとなりました。

 

 この裁判のポイントは、消滅時効が確定的に生じるのは時効が援用された時であるという基本的な法律解釈と、農地の非農地化のタイミングが売買契約の効力に与える影響についての判断です。