錯誤(法律行為の要素)
(平成元年9月14日最高裁)
事件番号 昭和63(オ)385
この裁判では、「錯誤」についての最高裁判所の見解が示されました。
最高裁判所の見解
- 動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤となるための条件:
動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤としてその無効をもたらすためには、以下の条件を満たす必要があります:
- その動機が相手方に表示され、法律行為の内容となること。
- もし錯誤がなかったならば、表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であること。
この動機が黙示的に表示されている場合であっても、法律行為の内容となることが妨げられるわけではありません。
- 本件の事実関係について:
所得税法33条1項における「資産の譲渡」は、有償・無償を問わず資産を移転させるすべての行為を指し、夫婦の一方が特有財産を財産分与として他方に譲渡することも「資産の譲渡」に当たります。
したがって、この場合には譲渡所得が発生し、課税対象となります。
本件において、上告人(財産を分与する側)はこの点を誤解していたと認められます。
上告人は、財産分与を受ける被上告人に課税されることを気にして発言をしており、被上告人も自己に課税されるものと理解していました。
このことから、上告人は財産分与に伴う課税の点を重視しており、自己に課税されないことを前提としていたことが、黙示的に表示されていたと判断されます。
- 錯誤による意思表示の無効の可能性について:
財産分与契約の目的物には、上告人らが居住していた不動産全体が含まれており、これに伴う課税は非常に高額となることが考慮されます。
そのため、上告人が課税されるという錯誤がなければ、財産分与契約の意思表示をしなかったと認める余地があります。
上告人に課税されることが契約の際に話題にならなかったとしても、それは上告人に課税されないことが明示的に表示されなかったことを示すに過ぎず、この錯誤の判断を妨げるものではないとしています。
- 結論
最高裁判所は、動機の錯誤が法律行為の無効をもたらすための要件を明確にし、錯誤があったことを証明するための状況(動機の黙示的表示やその重要性)について詳細に検討しました。
本件においては、上告人が課税されないことを当然の前提としていたことが認められ、その前提が誤りであったために財産分与契約が錯誤により無効である可能性を示唆しています。
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