消滅時効の起算点
(平成6年2月22日最高裁)
事件番号 平成1(オ)1667
この裁判では、「雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効の起算点」について最高裁判所の見解が示されました。
最高裁判所の見解
- じん肺の進行性とその特性:
じん肺は、肺内に粉じんが存在する限り進行する特異な進行性の疾患であり、その進行は肺内の粉じんの量に対応するものです。
じん肺の進行には個人差があり、進行の有無、程度、速度も患者によって大きく異なることが明らかです。
- 異なる管理段階における損害の発生時期:
行政上の決定(管理二、管理三、管理四)に基づく病状が異なるため、各段階における損害は質的に異なると判断されました。
したがって、より重い管理段階に相当する病状に基づく損害は、その段階の決定を受けた時に発生し、その時点から損害賠償請求権を行使することが法律上可能となります。
最初の軽い行政上の決定(例えば、管理二)の時点で、その後の重い決定に相当する病状に基づく損害を含む全損害が発生しているとみなすことは、じん肺という疾病の実態に反するとしています。
- 損害賠償請求権の消滅時効の起算点:
雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は、最終の行政上の決定を受けた時点から進行するものと解されました。
すなわち、じん肺の進行に応じて異なる損害が発生するため、最終的な病状の進行度に基づく損害賠償請求権の行使は、その最終的な決定の時点から可能となり、それが消滅時効の起算点となります。
- 結論
最高裁判所は、じん肺という疾患の特性を考慮し、損害賠償請求権の消滅時効の起算点を最終の行政上の決定を受けた時点からとすることが相当であると判断しました。
これにより、じん肺の進行状況に応じた適切な時点での請求が可能となり、病状の進行に伴う損害の発生時期を正確に反映することができます。
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