後見人の追認拒絶
(平成6年9月13日最高裁)
事件番号 平成4(オ)1694
この裁判では、禁治産者(現在の成年被後見人)の後見人が、その就職前に無権代理人によって締結された契約の追認を拒絶することが信義則に反するか否かを判断する際に考慮すべき要素について、最高裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
- 後見人の義務と注意義務:
後見人は、禁治産者(成年被後見人)との関係において、専らその利益のために善良な管理者としての注意をもって代理権を行使する義務を負います(民法869条、644条)。
後見人は、禁治産者を代理して法律行為を行うかどうかを決定する際には、その時点での禁治産者の状況を考慮し、禁治産者の利益に合致するよう適切な裁量を行使することが求められます。
- 相手方の利益への配慮:
法律行為においては、後見人は取引の安全等、相手方の利益にも相応の配慮を払うべきであり、取引関係に立つ当事者間の信頼を裏切るような行為や正義の観念に反する例外的な場合には、代理権の行使が許されないことがあります。
- 信義則に反するか否かの判断要素:
禁治産者の後見人が、就職前に無権代理人によって締結された契約の追認を拒絶することが信義則に反するか否かを判断する際には、以下の要素が考慮されます:
- 無権代理人と相手方との交渉の経緯、および無権代理人が契約の締結前に行った法律行為の内容と性質。
- 契約を追認することによって禁治産者が被る経済的不利益と、追認を拒絶することによって相手方が被る経済的不利益。
- 契約の締結から後見人が就職するまでの間に契約の履行などをめぐって行われた交渉の経緯。
- 無権代理人と後見人との人的関係、後見人がその就職前に契約の締結に関与した行為の程度。
- 本人の意思能力について相手方が認識し、または認識し得た事実。
原審の判断の誤り:
本件予約において、4,000万円の損害賠償額の予定が、譲渡の対価と比較して合理的な均衡が取れたか否かについて十分に検討することなく、後見人が予約の追認を拒絶して効力を争うのは信義則に反するとの原審の判断は、法令の解釈適用を誤ったものとされました。
この誤りは判決に影響を与えるものであるとされました。
- 解釈と意味
この最高裁判所の判断は、後見人の行動が禁治産者(成年被後見人)の利益にかなうものであるべきである一方で、取引相手の利益にも一定の配慮が必要であるとしています。
後見人が信義則に反して契約の追認を拒絶する場合、具体的な状況や諸要素を慎重に考慮することが求められると示しています。
この判断により、後見人の行動に対する法的な基準が明確化され、禁治産者と取引相手の双方の利益が公平に保護されることが強調されています。
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