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消滅時効を援用できるかについて

 後順位抵当権者と先順位抵当権の被担保債権の消滅時効の援用

  (平成11年10月21日最高裁)

 事件番号  平成9(オ)1771

 

 この裁判では、後順位抵当権者が先順位抵当権の被担保債権について消滅時効を援用できるかについて、最高裁判所が見解を示しました。

 

 最高裁判所の見解

 

  • 消滅時効の援用ができる者の範囲:

 民法145条において、消滅時効を援用できる者は、「権利の消滅により直接利益を受ける者」に限定されると解するべきである。

 

  • 後順位抵当権者の地位:

 後順位抵当権者は、目的不動産の価格から先順位抵当権によって担保される債権額を控除した残額についてのみ、優先して弁済を受ける地位を有している。

 

 先順位抵当権の被担保債権が消滅すると、後順位抵当権者の抵当権の順位が上昇し、被担保債権に対する配当額が増加する可能性がある。

 

 しかし、この配当額の増加に対する期待は、抵当権の順位の上昇によってもたらされる「反射的な利益」に過ぎない。

 

  • 後順位抵当権者の援用権限の否定:

 後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅によって「直接利益を受ける者」には該当せず、したがって消滅時効を援用することはできないと解されるのが相当である。

 

  • 第三取得者との区別:

 後順位抵当権者と異なり、抵当権が設定された不動産の譲渡を受けた第三取得者は、被担保債権が消滅すれば抵当権も消滅し、これにより所有権を全うすることができる。

 

 したがって、第三取得者は消滅時効を援用できるが、後順位抵当権者はその利益が「反射的利益」に過ぎないため、消滅時効を援用することができない。

 

  • 結論

 この判決において、最高裁判所は後順位抵当権者が先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することは認められないと判断しました。

 

 後順位抵当権者の地位は直接利益を受けるものではなく、むしろ反射的利益に過ぎないため、消滅時効を援用する権利はないとされたのです。

 

 また、第三取得者と後順位抵当権者は、その立場と利益の関係が異なるため、同列には扱えないとしています。