相続人に重度の認知症がある場合、成年後見制度を利用しないと、税務上や法務上のリスクが多く存在します。
以下に、税務リスクと法務リスク、それに対する対策を説明します。
1. 税務上のリスク
① 特例の適用が否認されるリスク
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など、遺産分割が要件となっている特例の適用が否認される可能性があります。
これにより、相続税の負担が増加することがあります。
未分割申告となり、遺産分割協議が成立していないと認定された場合には、将来的に成年後見人を立てて遺産分割が成立しても、特例の適用は困難になることがあります。
② 二次相続の相続税を否認されるリスク
例として、一次相続で母が重度の認知症の場合、一次相続での遺産分割が無効とされると、二次相続で父からの遺産が加算され、相続税の負担が増す可能性があります。
2. 法務上のリスク
① 遺産の相続手続きができなくなるリスク
認知症の相続人がいる場合、遺産の名義変更手続きが困難になることがあります。
銀行や証券会社、法務局での手続きの際に、認知症の相続人の意思確認ができず、手続きが停滞する可能性があります。
② 二次相続における一次相続以外の相続人の登場リスク
例えば、一次相続での遺産分割が無効とされると、二次相続で新たな相続人が登場し、遺産分割が争われるリスクがあります。
③ 相続人の一部が遺産分割無効を主張するリスク
認知症の相続人に署名や押印をしてもらい遺産分割協議書を作成しても、相続人が後に遺産分割無効を主張するリスクがあります。
④ 私文書偽造罪のリスク
意思能力がない相続人に無理に署名させたりすることで、私文書偽造罪や公正証書原本不実記載罪に問われる可能性があります。
3. 解決策
(1) 成年後見人を立てて適切に手続きをする
メリット:
- 税務、法務リスクを回避できる。
- 認知症患者の財産を適切に管理してもらえる。
デメリット:
- 成年後見人の選任に時間と手間がかかり、報酬が発生する。
- 法定相続での遺産分割が基本となるため、相続税負担が増す可能性がある。
(2) 遺産分割をしない(未分割)
メリット:
- 成年後見人を立てずに済む。
- 認知症患者が亡くなった後に遺産分割を行う自由がある。
デメリット:
- 遺産の利用ができない。
- 未分割申告では税務特例が適用されない。
4. 生前に遺言書を書く
重要性:
相続人に認知症の人がいる場合には、生前に遺言書を書いておくことが最も確実な方法です。
遺言書によって、遺産分割がスムーズに進み、トラブルを防ぐことができます。
遺言書の作成や成年後見制度の利用については、専門家のアドバイスを受けるとより確実です。
相続の準備を早めに進めて、将来的な問題を未然に防ぎましょう。
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