この裁判(平成8年10月14日最高裁判所判決、事件番号:平成6(オ)693)では、有限会社の経営者の交代が賃借権の譲渡に該当するかどうかについて、また信頼関係破壊の法理が賃貸借契約解除の事由となるかどうかについての見解が示されました。
最高裁判所の見解の要点
- 賃借権の譲渡と法人の構成員変動:
民法612条は、賃借人が賃貸人の承諾なしに賃借権を譲渡することを禁止し、賃借人が第三者に賃借物を使用または収益させた場合、賃貸人は賃貸借契約を解除することができると規定しています。
この条文の文理から、賃借権の譲渡は賃借人から第三者への譲渡を意味するとされます。
法人(有限会社など)が賃借人である場合、法人の構成員や役員の変動があっても、法人格の同一性が保たれる限り、賃借権の譲渡には当たらないとされます。
- 小規模な閉鎖的有限会社での経営者交代:
小規模で閉鎖的な有限会社において、実質的な経営者の交代(例えば、役員や持分の譲渡)があっても、賃借権の譲渡には当たらないとされています。
このような場合においても、法人の法的地位や賃借権の譲渡については、法人格の形骸化や活動の実体がない場合を除いて、基本的に賃借権の譲渡には該当しないとされています。
- 信頼関係の破壊と契約解除:
経営者の交代が賃貸借契約における信頼関係を破壊する場合、その契約解除の事由となるかどうかは、賃借権の譲渡に該当するかどうかとは別の問題であるとされています。
賃貸人が、経営者の資力や信用を重視する場合には、契約締結時に賃借人が経営者を変更する際には賃貸人の承諾が必要とする特約を設けることができます。
- 賃貸人の利益保護:
賃貸人の利益を保護するためには、賃借人との契約に特約を付けるなどの措置を講じることができるとされています。
これは、賃借人が賃貸人の承諾なしに役員や資本構成を変更した場合に契約を解除できるようにするためです。
- 判決の意義
この判決は、賃借権の譲渡に関する法的解釈と、有限会社における経営者の交代が賃貸借契約に与える影響について明確にしています。
法人の構成員や役員の変動が賃借権の譲渡と見なされるかどうかの基準を示すとともに、賃貸人が契約における信頼関係を保護するための措置についても触れています。
- 実務への影響
この判決により、賃貸契約を結ぶ際には、賃借人が法人である場合の経営者交代が賃借権の譲渡に該当するかどうかを慎重に考慮する必要があることが再確認されました。
また、信頼関係を重視する賃貸人は、契約に特約を加えるなどの対応策を講じることができるという実務上の指針が示されています。
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