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不真正連帯債務とは

 この裁判(平成10年9月10日最高裁判決)では、「不真正連帯債務」として共同不法行為者の一人が他の者の負担部分を超えて損害賠償を行った場合、その求償権や訴訟上の和解による債務免除の効力がどのように他の共同不法行為者に及ぶかについて、最高裁判所の見解を示しています。

 

1. 事案の概要

 甲と乙が共同で不法行為を行い、他人(被害者)に損害を与えた場合を前提としています。

 

 甲が被害者に対して、自己の責任割合を超えて損害賠償をした場合、甲は乙に対して、その超過部分について求償する権利を持ちます。

 

 本件では、甲と被害者の間で訴訟上の和解が成立し、請求額の一部が和解金として支払われる一方、残債務について被害者が甲に対し免除をしたと解される状況がありました。

 

2. 不真正連帯債務の見解

 不真正連帯債務とは、複数の債務者がそれぞれ異なる債務を負っているが、債権者に対して同一の給付をする義務があるような関係を指します。

 

 共同不法行為の場合、各不法行為者(甲と乙)は、被害者に対して損害賠償の連帯責任を負いますが、その内部的な負担割合は異なる場合があります。

 

 甲と乙が負担する損害賠償債務は不真正連帯債務に該当し、甲と被害者との和解が成立しても、民法437条(連帯債務の免除の絶対的効力)は適用されず、乙に対して当然に免除の効力が及ぶわけではないとされました。

 

3. 債務免除の効力の及ぶ範囲

 乙に対する残債務の免除の効力が及ぶかどうかは、被害者が訴訟上の和解に際して、乙に対しても残債務を免除する意思を有していたかどうかによります。

 

 本件において、乙(被上告人)に対しても残債務を免除する意思があったと認められる場合には、乙に対しても免除の効力が及ぶとされます。

 

4. 判決の結論と法的意義

 本件和解調書の記載から、被害者(I)が乙に対して残債務を免除する意思を有していたか否かについての審理が不十分であるとし、原審の判断には法令解釈の誤りがあるとされました。

 

 したがって、Iが被上告人(乙)に対しても残債務を免除する意思を有していたかについての審理が十分に行われるべきであるとされました。

  • この判例の重要なポイント

 不真正連帯債務における訴訟上の和解の効果は、共同不法行為者の一人(甲)にとどまるものであり、他の者(乙)に自動的に及ぶものではないということを明確にしています。

 

 債務免除の意思が乙に対してもあったかどうかは、具体的な和解の内容やその背景事情から判断されるべきであるとし、免除の効力が他の不法行為者にも及ぶためには、明確な意思が必要であると示しています。

  • この判決の意義

 この判例は、不真正連帯債務の処理における和解の効果の範囲を明確にし、特に共同不法行為における債務者間の関係と求償権に関する法的解釈に重要な指針を与えています。

 

 また、訴訟上の和解が第三者にどのように影響を及ぼすかについても重要な判断基準を示したものです。