この裁判(平成10年9月10日最高裁判決、事件番号:平成9(オ)448)では、不真正連帯債務における債務の免除の効力について、共同不法行為者間の訴訟上の和解が他の共同不法行為者にも及ぶかどうかが争点となりました。
以下に、最高裁判所の見解をまとめます。
最高裁判所の見解
- 不真正連帯債務の基本的理解
共同不法行為者(甲と乙)が被害者に損害を与えた場合、甲が乙の負担部分を含む損害賠償を支払った場合、甲は乙に対してその負担部分の求償を行うことができます。
この場合、甲と乙の損害賠償債務は不真正連帯債務とされます。
- 訴訟上の和解の効力
甲と被害者との間で成立した訴訟上の和解において、和解金の支払いと「残りの請求を放棄する」という条項が設けられた場合、甲が被害者に対して支払った部分についての免除があったとしても、この免除の効力が乙に自動的に及ぶわけではありません。
- 免除の効力が他者に及ぶための条件
被害者が訴訟上の和解時に乙の残債務も免除する意図がある場合、乙に対しても免除の効力が及ぶとされます。
この場合、乙はもはや残債務の請求を受けることはなく、甲の乙に対する求償金額は、和解時の支払額を基準にして双方の責任割合に従い算定するのが適当です。
- 本件の具体的判断
本件の和解調書からは、被害者(I)が乙に対して残債務を免除する意図が明確ではないものの、記録から見ると、Iは乙に対して残債務の履行を請求した形跡がなく、むしろ甲の求償訴訟に協力する姿勢を示していたとのことです。
このため、Iが和解によって乙の残債務も免除する意向であったと解釈する余地があるとされました。
- 原審の判断への指摘
原審が乙に対する求償金額を算定する際に、Iの残債務免除の意思を審理せずに判断した点について、法令の解釈適用の誤りや審理不尽の違法があったとされています。
- 判決の意義
この判決は、不真正連帯債務における債務の免除の効力が他の共同不法行為者にも及ぶかどうかについて、訴訟上の和解の内容や当事者の意図に基づいて判断するべきであるという点を明確にしています。
具体的には、和解における免除の効力が他の共同不法行為者に及ぶかどうかは、和解時の当事者の意図や状況に応じて判断されるべきであるとされており、原審の判断には法的な誤りがあるとされています。
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