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消費貸借契約における貸付金の返還問題について

 この裁判(平成10年5月26日最高裁判決、事件番号:平成8(オ)497)では、消費貸借契約における貸付金の返還問題について、特に第三者に対する貸付金の給付とその後の契約取消しがどう扱われるべきかについて議論されました。

 

 以下に、判決の主要なポイントをまとめます。

 

最高裁判所の見解

  • 基本的な原則

 消費貸借契約の借主が貸主に対して貸付金を第三者に給付するよう指示し、その後契約を取り消した場合、貸主から借主に対する不当利得返還請求が行われる際には、借主が給付によりその価額に相当する利益を受けたとみなされるのが通常である。

  • 利益の発生

 乙(貸主)が丙(第三者)に貸付金を給付した場合、借主である甲は直接的にはその給付による利益を受けたように見えないが、実際には甲が丙との間で何らかの法的または事実上の関係を有することが一般的であり、そのため貸付金の給付により甲が間接的に利益を受ける可能性がある。

  • 乙の立場

 乙が甲の指示に基づき丙に給付した場合、乙が甲と丙の関係や給付による甲の利益について詳細な理解を持っているとは限らないため、甲が乙から給付を受けた上でさらに丙に給付したことが明らかである場合に、甲に対して不当利得の返還を請求することは公平であるとされる。

  • 特段の事情

 本件では、甲と丙との間に事前に何らの法律上または事実上の関係がなく、甲が丁の強迫により消費貸借契約を締結し、貸付金を丙に給付するよう指示したことから、甲は特段の事情により給付によって利益を受けていないとされる。

  • 判決の意義

 この判決は、消費貸借契約における貸付金の給付とその後の契約取消しに関する利益の取り扱いについて明確な指針を示しています。

 

 具体的には、借主が第三者に貸付金を給付させた場合に、その給付による利益が借主に帰属するかどうかは、事前の関係性や強迫の有無など特段の事情を考慮して判断すべきであるとされています。

 

 また、乙の立場や実際の取引の状況に応じた公平な取り扱いが求められることが示されています。