· 

契約締結前の説明義務違反に基づく賠償責任

 この裁判(平成23年4月22日最高裁判決)では、契約締結前の説明義務違反に基づく賠償責任について、最高裁判所が見解を示しました。

 

判決のポイント

  • 信義則上の説明義務

 契約の一方当事者が、契約締結に先立ち、相手方に対して信義則上説明する義務を負っている場合、その説明義務を怠ったことで、相手方が本来であれば締結しなかったであろう契約を締結し、損害を被ったときには、説明義務違反は不法行為に該当するとされます。

  • 不法行為による賠償責任と契約上の債務不履行の違い

 一方当事者が信義則上の説明義務に違反したことによって相手方に損害が生じた場合、その責任は不法行為によるものであり、契約上の債務の不履行による賠償責任ではないとされています。

 

 なぜなら、契約締結前の説明義務違反に基づく損害は、契約自体に基づくものではなく、その契約が締結される原因となった不法行為として位置づけられるからです。

  • 損害賠償請求の消滅時効

 このような場合の損害賠償請求権は不法行為によるものであるため、民法724条前段に定める3年の消滅時効が適用されます。

 

 しかし、消滅時効の適用によって被害者の権利救済が不当に妨げられることにはならないとされています。

 

 これは、消滅時効の制度趣旨および起算点の規定に基づいたものであると解されています。

 

最高裁判所の見解

  • 契約前の説明義務の違反とその責任の範囲

 最高裁判所は、契約締結前の説明義務の違反について、それが相手方の判断に重大な影響を与えるものであれば、不法行為による損害賠償責任が生じることを認めています。

 

 これは、契約締結に至る過程で信義則に基づく説明義務が重要であることを強調しており、契約締結後にその説明義務が契約上の義務として扱われるわけではないという判断です。

  • この判決の意義

 この判決は、契約締結前の説明義務違反に基づく損害賠償請求について、どのような場合に不法行為としての責任が生じるかを明確にしたものであり、契約上の責任とは異なる扱いであることを示しています。

 

 これは、契約の前段階における情報提供の重要性を強調し、説明義務違反が契約関係に基づく責任とは別の不法行為責任として位置づけられる点に大きな意義があります。