この裁判(平成25年7月12日、最高裁、事件番号平成22(受)1163)は、土地工作物責任に関するものです。
具体的には、壁面に吹き付けられた石綿が露出している建物が、通常有すべき安全性を欠いていると評価される時点が明らかでないまま、設置や保存に関する瑕疵(かし、欠陥)の有無について判断した原審に審理不尽の違法があるとされた事例です。
最高裁判所の見解
- 土地の工作物の設置又は保存の瑕疵の定義:
「瑕疵」とは、土地の工作物が通常有すべき安全性を欠いていることを指します。
吹き付けられた石綿の粉じんにばく露することによる健康被害の危険性に関する科学的な知見や一般の認識、また法令上の規制の変化などは、時とともに変わるものであり、これに基づいて判断する必要があります。
- 本件の判断基準:
建物の所有者が土地工作物責任を負うか否かは、建物の壁面に吹き付けられた石綿が露出していることによって、通常有すべき安全性を欠くと評価される時点を証拠に基づいて確定し、その後に石綿の粉じんにばく露したことと被害者の発症との間に因果関係があるかを審理する必要があるとしています。
- 原審の誤り:
原審では、建物が通常有すべき安全性を欠くと評価される時点を明らかにせず、昭和45年以降の時期の瑕疵の有無について、平成7年の改正政令や平成17年の制定省令に基づく規制措置の導入を根拠にして直ちに判断してしまった点が問題とされました。
これにより、原判決には、判決に影響を及ぼす法令の違反があるとされました。
- 差し戻しの決定:
最高裁は、建物に瑕疵が認められる時期や、その後の粉じんばく露と発症との因果関係の有無について、さらに審理を尽くさせるために、本件を原審に差し戻しました。
この判決は、工作物の安全性についての判断が、時の経過とともに変化する科学的知見や規制の変化に応じたものであるべきことを示しています。
特に、石綿に関する健康被害のリスクが認識されるようになった時期を明確にすることが重要とされています。
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