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建物賃貸借契約における更新料条項の効力

 平成23年7月15日の最高裁判決(平成22(オ)863号事件)では、消費者契約である建物賃貸借契約における更新料条項の効力について判断が示されました。

 

1. 更新料の性質

 最高裁は、更新料とは、賃貸借契約の更新時に賃借人から賃貸人に支払われる金員であり、その性質は契約の成立前後の当事者双方の事情や条項成立の経緯などの諸般の事情を総合的に考慮して判断されるべきとしています。

 

 一般的には、更新料は賃料の補充や前払い、賃貸借契約を継続するための対価といった複合的な性質を持つと解されています。

 

2. 消費者契約法10条の適用

 消費者契約法10条は、消費者契約の条項が消費者の権利を制限したり義務を加重するものであれば、無効とする要件を定めています。

 

 この条項は、消費者契約における条項が公序良俗に反するか否かを判断するため、明文の規定だけでなく一般的な法理も考慮します。

 

3. 任意規定と更新料条項の関係

 賃貸借契約は、賃貸人が物件を賃借人に使用させ、賃借人が賃料を支払うことで成立するものです。

 

 したがって、更新料条項は、契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に課すものであり、消費者契約法10条に基づき任意規定の適用による場合に比べて賃借人の義務を加重するものであるとされています。

 

4. 更新料条項の無効性判断基準

 消費者契約法10条は、条項が民法1条2項の信義則に反して消費者の利益を一方的に害する場合、無効とする要件も定めています。

 

 更新料条項が信義則に反するか否かは、契約成立の経緯や消費者と事業者間の情報や交渉力の格差など、諸般の事情を総合的に判断します。

 

5. 更新料条項の有効性

 判決では、更新料が一般に賃料の補充や前払い、契約継続の対価としての複合的な性質を持ち、経済的合理性がないわけではないことが認められています。

 

 また、更新料支払の慣習が一定の地域に存在し、裁判上も更新料条項が公序良俗に反するとして無効とされることは少なかったため、更新料条項が一義的かつ具体的に契約書に記載されていれば、消費者契約法10条に違反しないとされています。

 

  • 結論

 したがって、更新料条項が賃貸借契約書に具体的に記載されており、賃借人と賃貸人の間で更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合、特段の事情(更新料の額が賃料や契約期間に対して高額すぎるなど)がない限り、更新料条項は消費者契約法10条に反するものではないと解されています。