· 

免責許可の決定の効力を受ける債権の取扱い

 この裁判(平成30年2月23日、最高裁、事件番号平成29(受)468)は、抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合における、当該抵当権自体の消滅時効についてのものです。

 

 具体的には、免責許可の決定により債権が強制的に実現できなくなった場合でも、抵当権がどのように扱われるべきかについて裁判所が判断を下しました。

 

 最高裁判所の見解

  • 免責許可の決定の効力を受ける債権の取扱い:

 免責許可の決定の効力を受ける債権は、債権者が訴訟を起こして強制的に実現を図ることができなくなり、その結果として民法166条1項に定める「権利を行使することができる時」を起算点とする消滅時効の進行を観念することができないとされています(最高裁平成9年(オ)第426号、平成11年11月9日判決参照)。

  • 抵当権の消滅時効と民法396条の適用:

 民法396条は、抵当権が被担保債権と同時でなければ消滅しないと規定していますが、これは被担保債権が時効により消滅する余地があることを前提としています。

 

 しかし、被担保債権が免責許可の決定により強制的に実現できなくなった場合には、被担保債権の消滅時効の進行を観念することができないため、民法396条は適用されないと解されます。

  • 抵当権の消滅時効の期間:

 抵当権は、民法167条2項の「債権又は所有権以外の財産権」に当たるため、20年の消滅時効が適用されるとされています。

 

 したがって、抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合には、抵当権自体は20年の消滅時効にかかるとするのが相当であると判断されました。

  • 根抵当権に対する適用:

 これらの見解は、担保すべき元本が確定した根抵当権についても同様に適用されます。

  • 判決の結論:

 以上のことから、原審が「抵当権は債務者及び抵当権設定者に対して時効によって消滅しない」との理由で上告人の請求を棄却した判断には法令の解釈適用の誤りがあるものの、20年の消滅時効期間が経過していないため、上告人の請求には理由がないとされました。

 

 結果として、原審の判断は結論において正当であるとされ、上告人の請求は棄却されました。

  • 裁判の意義

 この判決は、免責許可の決定によって債権の強制的実現が不可能になった場合でも、抵当権が20年の消滅時効にかかることを明示した重要なものです。

 

 これにより、免責後も一定期間にわたり抵当権の行使が可能であることが確認され、抵当権の担保価値が一定期間維持されることが保証されました。