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利益相反関係の存在

 この裁判(昭和53年2月24日最高裁、事件番号:昭和50(オ)354)では、共同相続人の一人である後見人が、他の共同相続人である被後見人を代理して行う相続放棄が「利益相反行為」にあたるかどうかが争点となりました。

 

最高裁判所の見解

  • 利益相反関係の存在:

 相続人の一部が相続を放棄すると、その者は初めから相続人でなかったものとみなされ、結果として他の相続人の相続分が増加することになります。

 

 したがって、相続を放棄する者と相続分が増加する者の間には、利益相反関係が生じることが明らかです。

  • 単独行為と利益相反行為:

 民法860条により準用される826条は、利益相反行為を相手方のある行為のみに限定する趣旨ではないと解されます。

 

 そのため、相続放棄が相手方のない単独行為であるという理由だけで、利益相反行為にあたらないと解するのは不適切です。

  • 過去の判例の変更:

 上記の見解に反する過去の大審院判例(大審院明治44年判決)は変更されるべきとしています。

  • 利益相反行為にあたらない場合:

 ただし、後見人がまず自分自身の相続を放棄した後に被後見人を代理して相続放棄を行う場合、または後見人自身の相続放棄と被後見人を代理した相続放棄が同時に行われたと認められる場合には、後見人と被後見人との間や被後見人相互間に利益相反行為があるとはいえないとしました。

  • 原審の誤り:

 原審は、後見人が被後見人を代理して相続放棄をする場合には常に利益相反行為にあたると判断しましたが、この解釈は民法860条により準用される826条の解釈を誤ったものであるとしています。

 

 原審は、後見人Gが被後見人らの代理で相続放棄を行ったことが利益相反行為にあたり無効であると判断しましたが、Gの相続放棄と被後見人の相続放棄の各時期について詳しい検討がされておらず、この点で審理が尽くされていないため、原判決は破棄されるべきとしました。

  • 差戻しの必要性:

 最終的に、後見人Gの相続放棄と被後見人の相続放棄の各時期について、さらに審理を行う必要があるとして、本件は原審に差し戻されることとなりました。

  • 結論

 この判決では、後見人による被後見人の相続放棄が必ずしも利益相反行為にあたるわけではなく、具体的な状況や行為の時期によって異なるという判断が示されました。