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長期間の別居と有責配偶者からの離婚請求

 この判例(昭和62年9月2日最高裁判決)では、長期間の別居と有責配偶者からの離婚請求に関して、以下のような最高裁判所の見解が示されています。

 

1. 婚姻の本質について

 婚姻とは、両性が永続的な精神的および肉体的結合を目的とし、真摯な意思を持って共同生活を営むことを指します。

 

 したがって、夫婦の一方または双方がその意思を確定的に喪失し、共同生活の実体を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態に至った場合、その婚姻はもはや社会生活上の実質的基礎を失っていると見なされます。

 

 このような状態で、戸籍上のみで婚姻を存続させることは不自然であると言えるでしょう。

 

2. 離婚請求と信義誠実の原則

 離婚は、社会的・法的秩序としての婚姻を廃絶する行為であるため、離婚請求は、正義・公平の観念や社会的倫理観に反してはならないことが重要です。

 

 したがって、離婚請求は民法全体の指導理念である信義誠実の原則に照らしても容認されるべきです。

 

3. 有責配偶者からの離婚請求に関する判断基準

 五号所定の事由(民法770条1項5号)による離婚請求が、有責配偶者(離婚事由に専ら責任がある一方の当事者)からなされた場合、その請求が信義誠実の原則に照らして許されるかどうかを判断する際には、以下の点が考慮されます。

  • 有責配偶者の責任の態様・程度
  • 相手方配偶者の婚姻継続に対する意思および感情
  • 離婚が相手方配偶者に与える精神的・社会的・経済的状態
  • 未成熟の子の監護・教育・福祉の状況
  • 別居後に形成された生活関係(内縁関係の有無、その相手方や子の状況)
  • 時の経過とそれによる諸事情の変容

 

4. 有責配偶者からの離婚請求が認められる場合

 有責配偶者からの離婚請求であっても、以下の条件が満たされる場合には、その請求が許されるとされています。

  • 夫婦の別居が両当事者の年齢や同居期間との対比において相当の長期間に及ぶこと
  • 別居期間中に未成熟の子が存在しないこと
  • 離婚請求を認容することが、社会正義に著しく反する特段の事情が認められないこと

 このような場合には、離婚請求が有責配偶者からのものであるという理由だけで拒否することはできないとされています。

 

5. 有責配偶者の責任と相手方配偶者の経済的不利益の解決

 有責配偶者からの離婚請求が認められる場合には、5号所定の事由に係る責任や相手方配偶者の精神的・社会的状態は特に重視されるべきではありません。

 

 また、相手方配偶者が離婚によって被る経済的不利益は、離婚と同時または離婚後における財産分与や慰謝料で解決されるべきとされています。

 

 この判例からわかることは、離婚請求の際には、単に有責配偶者であるという理由だけではなく、具体的な事情や信義誠実の原則に基づいた考慮が必要であるという点です。