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価額弁償の基準時は、現実に弁償がされる時

 この裁判(昭和51年8月30日最高裁、事件番号:昭和50(オ)920)では、贈与または遺贈の目的物の価額算定の基準時について、最高裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

  • 遺留分権利者の減殺請求と贈与・遺贈の効力

 遺留分権利者が減殺請求を行った場合、贈与または遺贈はその遺留分を侵害する限度において失効し、その結果、受贈者または受遺者が取得した権利は減殺請求をした遺留分権利者に当然に帰属するものと解されます。

 

 減殺請求により侵害された遺留分の回復方法としては、贈与または遺贈の目的物を返還するのが原則とされますが、民法1041条1項に基づき、目的物の価額を弁償することによって返還義務を免れることも認められています。

  • 価額弁償の理由

 目的物の返還か価額の弁償かを選ぶ権利が受贈者または受遺者に与えられる理由として、価額弁償を認めても遺留分権利者の生活保障に支障をきたさないことが挙げられています。

 

 また、これにより被相続人の意思を尊重しつつ、目的物に対する既存の利害関係者との利益の調和も図れるとしています。

  • 価額算定の基準時

 価額弁償は、目的物の返還に代わるものであり、等価であるべきものと解されます。

 

 そのため、価額弁償の基準時は、現実に弁償がされる時とされています。

 

 具体的には、遺留分権利者が価額弁償を請求する訴訟においては、事実審の口頭弁論が終結した時点、すなわち弁償が現実に行われる最も近い時点が基準時とされるべきと解されます。

  • 判決の要点

この判決では、以下の点が強調されています:

  • 贈与または遺贈が遺留分を侵害する場合、その部分は遺留分権利者に帰属し、目的物の返還か価額の弁償によって侵害された遺留分の回復が図られる。
  • 価額弁償の基準時は、現実に弁償がされる時であり、訴訟においては事実審の口頭弁論終結の時とするのが相当である。

 

 この見解により、遺留分権利者が減殺請求を行った際の贈与や遺贈の取り扱いと、その価額算定の時期が明確に示され、実務上の判断基準として重要な役割を果たしています。