この最高裁判決(平成10年2月13日、事件番号平成8(オ)2168)では、限定承認をした相続人が死因贈与による不動産の取得を相続債権者に対抗することができるかどうかについて、以下のような見解が示されました。
判決の要点
- 死因贈与の受贈者と相続人の関係
不動産の死因贈与を受けた受贈者が、その贈与者の相続人であり、かつ相続について限定承認をした場合、死因贈与に基づく所有権移転登記が相続債権者による差押登記よりも先に行われたとしても、受贈者は相続債権者に対して不動産の所有権取得を対抗することができません。
- 信義則の適用
限定承認を行った相続人は、相続債権者に対して弁済義務を負う立場にありながら、死因贈与の受贈者として自らに対して所有権移転登記を行うことは信義則に反するとされています。
このため、相続債権者に対してその不動産の所有権取得を主張することはできないとされました。
- 公平の欠如の問題
限定承認者が、相続債権者の差押登記よりも先に所有権移転登記を行い、死因贈与の不動産の所有権取得を主張できるとした場合、限定承認者は被相続人の他の財産に対する弁済義務のみで免責され、さらに死因贈与の不動産の所有権をも取得するという利益を得ることになります。
その一方で、相続債権者は弁済を受けることができる額が減少し、不利益を被ることとなります。
このため、限定承認者と相続債権者との間で公平を欠く結果となります。
- 仮登記に基づく本登記の適用
この理論は、所有権移転登記が仮登記に基づく本登記であるかどうかには関係なく適用されるとされています。
- まとめ
この判決は、限定承認をした相続人が死因贈与によって取得した不動産の所有権を相続債権者に対して対抗することはできないと判断しました。
これは、限定承認者が相続債権者に対する公平を欠く行為と見なされるためであり、信義則の原則に基づいてこの結論が導かれています。
このため、限定承認者は相続債権者に対して死因贈与による不動産の所有権を主張することは認められないとされています。
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