この裁判(平成11年6月24日最高裁判決、事件番号 平成8(オ)2292)では、遺留分減殺の対象物に対する取得時効の援用が認められるかどうかが争点となりました。
最高裁判所の見解:
被相続人が行った贈与が遺留分減殺の対象となる要件を満たす場合、遺留分権利者が減殺請求を行うことにより、その贈与は遺留分を侵害する限度で失効し、受贈者が取得した権利はその限度で遺留分権利者に当然に帰属します。
受贈者が贈与の目的物を占有し、民法162条に基づく取得時効を援用しても、遺留分権利者への権利帰属が妨げられることはありません。
- 判決の理由:
民法は遺留分減殺によって法的安定がある程度損なわれることに対して一定の配慮をしているものの(民法1030条、1035条、1042条など)、遺留分減殺の対象となる贈与については、それが何年前にされたかにかかわらず、減殺の対象となることを定めています。
もし、受贈者が目的物を取得時効により取得してしまった場合、遺留分権利者がその権利を取得できない結果となる可能性があります。
この場合、被相続人が死亡するまでに時効期間が経過したとしても、遺留分権利者は時効を中断する法的手段がないため、不公平な結果が生じることになります。
そのため、受贈者は時効期間が経過していたとしても、遺留分減殺請求がなされた場合には、遺留分侵害の限度でその権利を遺留分権利者に帰属させるべきであると解釈されました。
- 裁判のポイント:
贈与が遺留分減殺の対象である場合、取得時効によって贈与の目的物を受贈者が取得したとしても、その権利は遺留分侵害の限度で遺留分権利者に帰属することが認められるという重要な原則が確認されました。
これにより、遺留分を保護するための減殺請求の効力が、贈与から長期間経過した場合でも確保されることが明示されました。
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