この裁判(平成11年12月16日最高裁判決、事件番号 平成10(オ)1499)は、遺言執行者の職務権限に関する重要な判決です。
最高裁判所の見解:
「相続させる遺言」(特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言)は、原則として、被相続人の死亡時にその不動産が直ちにその相続人に承継されるという性質を有するものとされています。
つまり、特段の事情がない限り、遺言によって特定の不動産は相続人に自動的に帰属します。
しかし、遺言執行者の役割は、遺言の実現を支援することです。
たとえ、相続によって自動的に権利移転が行われる場合でも、登記手続きを行うなどの具体的な執行行為が必ずしも不要になるわけではありません。
- 不動産登記に関する遺言執行者の職務権限:
不動産取引では登記が重要な役割を果たします。
たとえ「相続させる遺言」によって権利が移転した場合でも、その権利を第三者に対抗するためには登記が必要です。
遺言執行者には、相続人に不動産の所有権移転登記を取得させるための手続きが「遺言の執行に必要な行為」(民法1012条1項)として認められています。
- 実務上の解釈:
不動産登記法27条に基づき、「相続させる遺言」を受けた相続人は単独で登記申請を行うことができます。
このため、被相続人名義の不動産の所有権移転手続きが未了である限り、遺言執行者が積極的に登記手続きを行う必要は通常ありません。
- 特別な状況における遺言執行者の職務:
しかし、本件のように、他の相続人が不正に自己名義で所有権移転登記を行った場合には、遺言執行者は妨害を排除する権限を有します。
具体的には、他の相続人が行った不当な所有権移転登記の抹消を求め、さらに、正当な相続人への所有権移転登記を回復させるための手続きを行うことが遺言執行者の職務に含まれます。
相続人自身も同様の登記手続を請求する権利を有しますが、このことは遺言執行者の職務権限を妨げるものではないとされています。
- 裁判のポイント:
遺言執行者の役割は、相続人に権利が自動的に移転した場合でも、その権利の具体的な実現(特に登記に関する部分)に関わる重要な責任を負うことが確認されました。
また、不正な登記によって遺言の実現が妨害された場合、遺言執行者がその妨害を排除するために行動できるという点が強調されています。
コメントをお書きください