この裁判(平成12年7月11日最高裁判決、事件番号 平成11(受)385)は、遺留分減殺の対象となった贈与や遺贈に関する財産の返還義務と価額弁償に関するものです。
最高裁判所の見解:
受贈者(贈与を受けた者)や受遺者(遺贈を受けた者)は、遺留分減殺請求に対して、目的物そのものを返還する代わりに、その価額(評価額)を弁償することができるとされています。
これは、民法1041条1項に基づく解釈です。
遺留分権利者の返還請求は、各個の財産に対してなされるものです。
そのため、受贈者や受遺者は、それぞれの財産について価額弁償を行うことで、返還義務を免れることができます。
- 価額弁償の根拠:
遺留分の権利は、遺留分算定の基礎となる財産の一定割合に基づくものであり、特定の財産を必ず取得できるというものではありません(民法1028条から1035条参照)。
そのため、受贈者や受遺者は、当該財産の価額を弁償することによって返還義務を免除されることができます。
仮に、価額弁償を実際に行わない場合や、その履行を提供しない場合には、遺留分権利者からの返還請求を拒むことはできません。
- 価額弁償の適用範囲:
複数の財産が異なる受贈者や受遺者に贈与または遺贈されている場合、各受贈者や受遺者は、それぞれの財産について別々に価額弁償をすることが認められます。
この原則は、遺留分権利者の権利を害することなく、贈与や遺贈の返還義務を履行する柔軟な手段を提供しています。
また、相続財産の包括遺贈においても、個々の財産に関しては特定遺贈と同様の取り扱いを受けるため、包括遺贈でも価額弁償が可能です。
包括遺贈とは、被相続人が相続財産全体を一括して遺贈することを意味しますが、実際には特定財産と同じ処理が行われます。
- 裁判のポイント:
受贈者や受遺者は、遺留分減殺請求に応じて財産そのものを返還せず、価額を弁償することによって返還義務を履行できるという点が確認されました。
この制度により、遺留分権利者の権利を侵害することなく、受贈者や受遺者が財産を保持するための柔軟な選択肢が提供されています。
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