この平成20年1月24日の最高裁判決(平成18(受)1572)は、遺留分権利者が遺贈の目的物に対して価額弁償請求権を確定的に取得する時期についての判断を示しています。
最高裁判所の見解
判決では、遺留分権利者が遺贈の目的物に対してどのように価額弁償請求権を取得するか、その条件とタイミングについて以下のような見解が示されています。
- 履行の提供による価額弁償請求権の発生
遺留分権利者が受遺者に対して遺留分減殺に基づく現物返還請求をした場合、受遺者が遺贈の目的物の価額に相当する金銭を履行の提供(支払の準備を整え、その意思を示すこと)を行うと、その時点で受遺者は目的物の返還義務を免れます。
他方、遺留分権利者は、その履行の提供により、目的物に代わる金銭の支払いを請求する権利を取得します。
- 意思表示による価額弁償請求権の発生
仮に受遺者が遺贈の目的物の価額に関する履行の提供をしていなくても、遺留分権利者に対してその価額を弁償する意思を明示した場合、遺留分権利者は現物返還請求権の行使に加えて、価額弁償請求権を行使することができます。
つまり、遺留分権利者は、現物返還か価額弁償のいずれかを選択できる立場にあるということです。
- 価額弁償請求権の確定的取得のタイミング
遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する旨の意思表示をした場合、その時点で遺留分権利者は目的物の所有権と現物返還請求権を遡って失います。
そして、これに代わる形で価額弁償請求権を確定的に取得します。
- 実務への影響
この判決は、遺留分減殺に基づく請求において、現物返還と価額弁償請求の選択権が遺留分権利者にあること、そしてその権利の確定のタイミングがどのように決まるかを明確にしています。
特に、遺留分権利者が現物返還ではなく価額弁償を求める場合、受遺者が価額弁償を提供するか意思表示を行うことが重要です。
そして、遺留分権利者が価額弁償請求権を行使する旨を意思表示すれば、現物返還の権利は消滅し、遡って金銭による請求が確定的になるため、相続人間の争いを減らすための有効な手段として機能します。
このような制度の理解は、相続の実務において柔軟な対応を可能にし、遺留分権利者と受遺者の間での公平な資産分配を促進します。
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