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自救行為の適用について

 この裁判(昭和30年11月11日最高裁判決)では、「自救行為」として行われたXの建造物損壊行為が、その違法性を阻却できるかが争点となりました。

 

 自救行為とは、自己の権利を守るために行う行為で、正当防衛や緊急避難と似た性質を持ちますが、その範囲と限度が法的に問題となることがあります。

 

事件の概要

 Xは、自身が借地している土地に建物を増築するため、Aが不法に増築したとされるA所有の住家の玄関の一部(間口約240cm、奥行き約30cm)を、大工に命じて切除させました。

 

 この行為によってXは建造物損壊罪で起訴されました。

 

 Xは、Aがその玄関を不法に増築しており、X自身の経営のためには迅速に増築を行う必要があったことから、自らの行為を正当化しようとしました。

 

裁判所の見解

 最高裁は、以下の点について判断を下しました。

  • Aの玄関の増築の不法性:

 AがXの借地内に無許可で玄関を増築したことは、建築法的に不法な行為であったとされました。

  • Xの損害の緊急性:

 Xは、自身の店舗の増築が経営危機を打開するために遅延できないものであり、Aの玄関の切除がXの経済的利益にとって重要であると主張しました。

 

しかし、裁判所は、これだけの理由ではXの行為が違法性を阻却する自救行為とは認められないと判断しました。

  • 自救行為の適用について:

 自救行為が違法性を阻却するためには、他に法的手段がなく、放置すると著しい損害が生じる場合に限られます。

 

 しかし、Xは法的な手続きを取らずに、自らAの玄関を破壊したため、裁判所はこれを「自救行為」として正当化することはできないとしました。

 

 特に、Aの玄関の切除によってAが被る損害と、XがAの玄関をそのまま放置した場合にXが受ける経済的損害とを比較した際に、Xの損害が甚大であったとしても、これが即座にXの行為を正当化するものではないとされました。

  • 結論

 この事例では、Xの行為は自救行為としての要件を満たさず、建造物損壊罪の違法性を阻却するものとは認められませんでした。

 

 Xが行うべきであったのは、適切な法的手続きを経て権利を守ることであり、自ら直接他人の財産を損壊する行為は許されないとされました。

 

 この判決は、自救行為の適用範囲と、その限界についての指針を示すものです。