この裁判(昭和43年2月27日最高裁判決)では、「限定責任能力」と「原因において自由な行為」に関する刑法上の問題が取り扱われました。
・事件の概要
Xは自らの車を運転してバーに行き、飲酒した後に自分で運転することを認識していました。
約3~4時間でビール20本を飲んだ結果、飲酒酩酊により心神耗弱の状態に陥り、他人の車を自分のものと誤認して運転しました。
その後、途中でAを乗車させ、金品を脅し取る行為に及びました。
- 法的問題点
この裁判では、Xが心神耗弱状態にあったことが認められた場合でも、刑法第39条第2項による刑の減軽が適用されるかが争点となりました。
心神耗弱とは、精神的または身体的な理由で自己の行為の違法性を完全に理解できない、または行動を制御できない状態を指します。
通常、心神耗弱の状態で犯罪を行った場合は、その責任能力が限定され、刑が減軽される可能性があります。
原因において自由な行為とは、行為者が自身を故意に責任能力が限定される状態に陥らせた場合、その責任能力が制限されない、または減軽されないという法的原則です。
これは、例えば、酩酊状態に陥る前に違法な行為を行う意思を持っていた場合に適用されます。
最高裁の見解
最高裁は、Xが飲酒の際にすでに「酒酔い運転を行う意思」を持っていたと認定しました。
そのため、たとえXが酒酔いにより心神耗弱の状態であったとしても、行為自体が「原因において自由な行為」とみなされました。
具体的には、Xが意図的に飲酒して酩酊状態に陥った上で酒酔い運転を行ったため、Xの責任能力を限定することはできず、刑法第39条第2項による刑の減軽は適用されないと判断されました。
- 結論
最高裁は、原因において自由な行為の原則を適用し、Xの責任能力を限定することはできないとし、刑の減軽を否定しました。
つまり、たとえ心神耗弱の状態であっても、その原因が自らの意思に基づいて引き起こされた場合、刑の減軽は認められないという判断が下されたのです。
この判決は、責任能力の判断における「自由な意思」と「原因において自由な行為」の重要性を示すものであり、飲酒運転や酩酊状態での行為に対する厳格な法的取り扱いを確認した事例です。
コメントをお書きください