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刑法における故意の範囲や認識の程度

 この事件(平成2年2月9日最高裁判決)は、故意の内容に関する重要な問題が争点となりました。

 

 被告人が覚せい剤を輸入する際に、それが違法な薬物であるという認識があったかどうかが議論されました。

 

事件の概要

 被告人(アメリカ国籍のX)は、知人から「化粧品」と言われ、【ある物】を日本に運ぶように頼まれました。

 

 その物を腹巻の中に隠して日本に入国しましたが、その物は覚せい剤を含む薬物でした。

 

 この事件では、Xが覚せい剤の輸入について故意があったかが問題となりました。

 

 故意とは、刑事責任を問う際に、違法行為についての認識があることを指します。

 

最高裁の見解

 最高裁は、次のように判断しました。

 

 原判決は、Xがその物を密輸入し所持した際に、「覚せい剤を含む身体に有害で違法な薬物類である」という認識を持っていたと認定しました。

 

 これは、Xがその物が覚せい剤である可能性を認識していたか、あるいはその他の違法な薬物である可能性も認識していたことを意味します。

 

 最高裁の判断は、覚せい剤かどうかに関係なく、「身体に有害で違法な薬物である」という認識があった時点で、覚せい剤輸入罪および所持罪における故意が成立するとしました。

 

 Xが薬物の具体的な種類(覚せい剤かその他の薬物か)を特定できていなくても、違法な薬物を輸入しているとの認識があったため、故意が欠けることはないとされました。

  • 結論

 この判決は、故意が成立するためには、具体的な薬物の種類を完全に特定している必要はなく、違法である可能性がある薬物を輸入・所持している認識があれば十分であるとする重要な基準を示しました。

 

 したがって、被告人が覚せい剤輸入罪および所持罪の故意を欠いているとの主張は認められず、原判決の判断は正当とされました。

 

 この判例は、刑法における故意の範囲や認識の程度に関する重要な基準を示しています。