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正当防衛および防衛の意思

 この事件(昭和50年11月28日最高裁判決)は、正当防衛および防衛の意思に関する刑法上の問題が取り扱われました。

 

事件の概要

 被告人とその友人甲は、花火をしていたA、B、Cの3人のうち1人を友人と間違えて声をかけたところ、因縁をつけられました。

 

 その後、酒肴を奢らされ、さらに3人に甲が暴行を受けている状況で、被告人は甲の生命が危険であると感じ、自宅から散弾銃を持ち出して現場に戻りました。

 

 Aが「殺してやる」と言いながら追いかけてきたため、被告人はAに向けて散弾銃を発砲し、Aに全治4か月の怪我を負わせました。

  • 法的問題点

 この事件では、被告人の行為が正当防衛に該当するかどうかが争点となりました。

 

 正当防衛とは、急迫不正の侵害に対して自己または他人の権利を防衛するために行われた行為であり、刑法第36条に基づいて違法性が阻却される行為です。

 

 過剰防衛とは、正当防衛の条件を満たしているが、必要以上の防衛行為を行った場合であり、刑の減軽が認められる可能性があります。

 

最高裁の見解

 最高裁は、防衛行為における「防衛の意思」と「攻撃の意思」の関係について以下のように判断しました。

 

 防衛の意思が存在する限り、その行為に侵害者に対する攻撃的な意思が同時に存在しても、その行為は正当防衛として認められると解釈しました。

 

 つまり、防衛の名のもとに積極的に侵害者を攻撃する行為は、防衛の意思を欠くため正当防衛とは認められないが、防衛の意思と攻撃の意思が併存している場合は、防衛の意思が欠如しているとは言えないため、正当防衛として評価できるとしました。

 

 しかし、原判決は、被告人が他人の生命を救うために銃を持ち出した行為自体は認めながら、侵害者への攻撃の意思があったことを理由に、その行為を正当防衛として認めず、過剰防衛にあたるとしたため、最高裁はこの判断を刑法第36条の誤った解釈であると指摘しました。

  • 結論

 最高裁は、原判決が正当防衛を否定し過剰防衛とした判断を破棄しました。

 

 しかし、差戻審では、Aからの追跡が「急迫不正の侵害」に該当しないとして、最終的に過剰防衛の成立は否定されました。

 

 この判決は、防衛行為における防衛の意思と攻撃の意思の共存が可能であることを確認し、正当防衛が認められる可能性がある状況についての重要な基準を示しました。