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事実上の占有を無視して物を取り上げる

 この裁判では、自動車売買契約に基づく貸主の行為が、刑法242条にいう「他人の占有に属する物を窃取」したとされるかどうかが問題となりました。

 

 具体的には、自動車の所有権が貸主に移転した後に、借主の事実上の支配内にある自動車を承諾なしに引き揚げた行為が窃盗罪に該当するかについて判断されました。

 

最高裁判所の見解は以下の通りです:

  • 他人の占有に属する物を窃取:

 被告人が自動車を引き揚げた時点で、自動車は借主の事実上の支配下にあったと認定されました。

 

 つまり、自動車は物理的には借主が支配していた状態にあったとされています。

 

 たとえ貸主に所有権があったとしても、借主の占有を無視して自動車を引き揚げた行為は、刑法242条にいう「他人の占有に属する物を窃取したもの」として、窃盗罪が成立する可能性があるとされました。

  • 社会通念上の違法性:

 自動車を引き揚げる行為は、社会通念上借主に受忍を求める限度を超えた違法な行為であるとされています。

 

 つまり、契約に基づく正当な手続きではなく、借主の支配を不当に侵害するものであるとされました。

  • 原判決の正当性:

 以上の理由から、原判決が示した判断は正当であるとされました。

 

 このように、所有権が移転した場合でも、事実上の占有を無視して物を取り上げる行為は窃盗罪に該当することがあるとされ、法律の解釈が社会通念と一致する形で示されています。