この裁判は、請負人が欺罔手段を用いて請負代金を本来の支払時期よりも前に受領した場合に、詐欺罪が成立するかどうかを判断したものです。
最高裁判所は、以下のような見解を示しました:
- 詐欺罪の成立要件:
請負人が本来受領する権利を有する請負代金を欺罔手段を用いて不当に早く受領した場合、その代金全額について刑法246条1項の詐欺罪が成立する可能性がある。
ただし、詐欺罪が成立するためには、欺罔手段を用いなかった場合に得られたであろう請負代金の支払とは、社会通念上別個の支払に当たるといえる程度の期間支払時期を早めたものである必要がある。
- 本件の判断:
第1審判決では、被告人が内容虚偽の処理券を提出した結果、工事完成払金の支払時期をどの程度早めたかの認定がされていないため、詐欺罪の成立を認めるには不十分であるとされました。
また、被告人の行為が工事完成払金の支払時期をどれだけ早めたかが記録上明確でないため、第1審判決の判断も不十分であるとされました。
- 結論:
原判決には法令解釈の誤りや重大な事実の誤認があるとされ、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとの判断が示されました。
要するに、詐欺罪が成立するためには、請負代金の支払時期を不当に早めたことが社会通念上、通常の支払と異なる程度であることが必要であり、その認定が不十分だったため原判決は破棄されました。
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