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詐欺罪の成立には「不法領得の意思」が必要

 

 この事件(平成16年11月30日最高裁判決、事件番号平成16(あ)761)は、被告人が債務者を装って郵便配達員を欺き、支払督促正本を受領し、その後、債務者が異議を申し立てる機会を奪い、支払督促の効力を確定させた行為において、詐欺罪における「不法領得の意思」が認められるかが問題となりました。

 

最高裁の見解

  • 不法領得の意思について

 被告人は郵便配達員を欺き、支払督促正本を受領しましたが、この正本をただ廃棄するつもりであり、他の用途に利用する意思はありませんでした。

 

 このため、最高裁は「支払督促正本等に対する不法領得の意思を認めることはできない」としました。

 

 たとえ受領行為が財産的利益を得るための手段として行われたとしても、正本自体を利用または処分する意思がない場合には、不法領得の意思は成立しないとされています。

  • 詐欺罪の成立について

 詐欺罪の成立には「不法領得の意思」が必要です。

 

 この事件では、支払督促正本を欺いて受け取った行為自体に不法領得の意思が認められなかったため、詐欺罪の成立は認められませんでした。

 

 そのため、詐欺罪の成立を認めた原判決は、法令の解釈適用を誤ったと判断されました。

 

  • 他の罪についての評価

 一方で、この事件においては有印私文書偽造罪および同行使罪の成立が認められました。

 

 これらの罪質や動機、態様、結果に照らして、詐欺罪の誤りによって原判決を破棄する必要がないと判断されました。

  • 結論

 最高裁は、この事案において詐欺罪の成立を認めた原判決が誤りであるとしながらも、全体として判決を破棄するほどの重大な誤りではないと判断しました。

 

 この判決は、不法領得の意思が詐欺罪成立の要件であることを強調しています。