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宅地建物取引業者の監督と国家賠償責任

 この裁判(平成元年11月24日最高裁判決、事件番号昭和61(オ)1152)では、宅地建物取引業者の監督と国家賠償責任に関する見解が示されました。

 

 最高裁判所の見解は以下の通りです。

 

1. 宅地建物取引業法の趣旨

 宅地建物取引業法は、購入者や取引関係者の利益を保護することを目的の一つとして定めています(1条)。

 

 例えば、知事等には宅建業者が取引関係者に損害を与える可能性が高い場合に必要な指示を行う権限があります(65条1項1号)。

 

 また、営業保証金の供託義務(25条、26条)も取引関係者の利益を保護するための規定です。

 

2. 免許制度の趣旨

 宅地建物取引業者に対する免許制度は、取引関係者の利益保護に資するものの、業者の人格や資質を保証するものではなく、不正行為による損害の防止や救済を直接的な目的とするものではありません。

 

 このため、知事等が免許を付与したこと自体が国家賠償法1条1項にいう違法な行為に当たるわけではありません。

 

3. 国家賠償責任の適用条件

 取引関係者が宅建業者の不正行為によって損害を被った場合でも、知事等による監督処分権限の不行使が「著しく不合理」と認められない限り、その不行使自体が国家賠償法1条1項の適用上、違法と評価されることはありません。

 

 この判決では、宅建業者の監督において行政機関がどこまで責任を負うかについての基準が示され、行政がすべての宅建業者の行為を直接的に監督する義務はないことが明らかにされました。