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緊急避難の概要

 緊急避難の概要

 

 緊急避難(刑法第37条)は、自己または他人の生命、身体、自由、または財産に対する現在の危難を避けるためにやむを得ず行った行為について、その行為が避けようとした害の程度を超えない限り、違法性が阻却されるという概念です。

 具体的には、以下の要件が満たされる場合に成立します。

 

緊急避難の要件

  • 現在の危難:

 緊急避難が成立するためには、現在進行中の危険が存在する必要があります。

 過去の事象や予見される危険に対しては適用されません。

  • やむを得ない行為:

 危難を避けるために、やむを得ずに行った行為であることが求められます。

 つまり、他に選択肢がなく、最も適切な方法である必要があります。

  • 法益の均衡:

 避けようとした害と避難行為によって生じた害の程度が釣り合っている必要があります。

 避けようとした害が生じた場合に、避難行為がその害を超えてはならず、害が同程度でも緊急避難は成立します。

  • 補充の原則:

 緊急避難が成立するためには、避難行為が法益を救うための唯一の手段であり、他に救済方法がないことが必要です。

 正当防衛にはこの要件はありません。

  • 法益均衡の原則:

 避難行為によって生じた害が、避けようとした害の程度を超えないことが要求されます。

 もし避けようとした害の程度を超えた場合には、情状により刑を減軽または免除することができます。

 

緊急避難と正当防衛の違い

  • 正当防衛:

 不正(違法)の侵害に対する防御行為であり、過剰防衛や必要以上の行為が認められる場合は、違法性が阻却される。

 ただし、自然的事実(地震、火事、暴風雨など)に対しては成立しません。

  • 緊急避難:

 正の侵害(自然的事実や他者の合法的行為)に対しても成立する可能性があり、正当防衛よりも広範に適用されます。

 自然的事実に対しても適用されるため、より柔軟な対応が可能です。

 

 例

  • 自然災害:

 例えば、山火事から逃げるために他人の私有地に無断で立ち入る行為は、緊急避難に該当する場合があります。

 

 ここで、逃げるための行為によって生じた害が、山火事によって避けようとした害の程度を超えなければなりません。

  • 交通事故:

 緊急避難の範囲内で、急ブレーキをかけるために他の車両にぶつかってしまった場合、避けようとした危険と実際に生じた害の程度が均衡しているならば、緊急避難として認められる可能性があります。

 

まとめ

 緊急避難は、自己または他人の生命や財産を守るためにやむを得ず行った行為で、避けようとした害の程度を超えない場合に、違法性が阻却されるという法律の概念です。

 

 形式的な法的要件だけでなく、実質的にその行為が社会的に正当とされるかどうかも考慮されるため、柔軟な判断が求められます。