家族信託の受託者が行う帳簿作成と報告の実務
家族信託において、受託者である子は、信託契約期間中、親(受益者)に対して毎年1回、財産の状況を報告する義務があります。
これを実現するためには「信託帳簿」や「財産状況開示資料」の作成が求められますが、商事信託のような専門的な会計処理は不要です。
たとえば現金の動きがある場合は「現金出納帳」を、預金での管理が中心であれば、信託専用口座の通帳に入出金の使途をメモするだけでも実質的な帳簿として機能します。
出金に伴う領収書の保管も重要で、使途不明金を生まない工夫が大切です。
「財産状況開示資料」についても、信託契約時に作成された信託財産目録をもとに、変動した項目だけを修正すればよいため、受託者の会計負担は限定的です。
さらに、信託契約に条項を設ければ、この報告義務を軽減・免除することも可能です。
特に、信託財産に収益を生む資産(例:賃貸アパート)が含まれている場合は、受託者がその年間の収支状況を整理する必要がありますが、この作業は親の確定申告に必要な準備と重なります。
親が元気なうちは、受託者が取りまとめた収支資料をもとに親自身が申告すればよく、将来的に申告が困難になった場合でも、子が代理で申告・納税しても問題ありません(納税者本人の来署は不要)。
加えて、現金の「タンス預金」管理は極力避け、出入金の記録が残るように信託専用口座を用いて、口座振込や引落しで管理するのが望ましいです。
これにより通帳そのものが帳簿としても活用でき、実務負担が大幅に軽減されます。
成年後見制度と比較しても、家庭裁判所への報告義務などがない分、家族信託における受託者の会計業務はかなり簡便です。
信託制度が信頼関係に基づいて設計されていることから、透明性を意識したゆるやかな管理体制を整えることで、安心して実行できる仕組みが整います。
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