「保全命令」には「仮差押え」と「仮処分」の2つの種類があります。
1. 仮差押え
仮差押えは、金銭債権の保全を目的とするもので、以下のような状況で発動されます:
- 目的:
債務者が財産を処分したり隠したりすることで、債権者が金銭を回収できなくなるリスクを防ぐためです。
- 条件:
強制執行ができなくなるおそれ、または著しい困難が生じるおそれがある場合に発することができます(民事保全法第20条)。
- 解放方法:
債務者が「仮差押解放金」を供託することで、仮差押えを解除することができます。
裁判所は必ず、債務者が供託すべき金額(仮差押解放金)を決定します(民事保全法第22条)。
- 仮差押えの特徴:
仮差押えは「金銭債権」を保全するための手続きです。
例えば、貸金債権のように金銭の支払いが主な目的となる場合に利用されます。
債務者がお金を供託することで、仮差押えを解放できる仕組みがあるため、金銭で解決する争いに用いられます。
2. 仮処分
仮処分は、金銭以外の権利や特定の物に関する権利を保全するために行われます。
以下の2つのタイプがあります:
「係争物に関する仮処分」
目的:
不動産や動産などの「特定物」の権利を保全するため。特定物の現状が変更されることで、権利の実行が困難になる場合に発動されます(民事保全法第23条第1項)。
例:
所有権や賃借権などの権利が侵害されるおそれがある場合、不動産の売買を差し止めるための手続き。
「仮の地位を定める仮処分」
- 目的:
権利関係の争いにおいて、急迫の危険や著しい損害を防ぐために仮の状態を維持することが必要な場合に行われます(民事保全法第23条第2項)。
- 例:
労働紛争において、雇用関係の地位を一時的に保全するための手続き。
- 仮処分の解放:
仮差押解放金と同様に「仮処分解放金」がありますが、こちらは裁判所が定めることができる(任意的)規定となっています(民事保全法第25条)。
仮処分解放金は、金銭で権利の実行が可能な場合に限り、債権者の意見を聞いて裁判所がその金額を決定することができます。
- 仮処分の特徴:
仮処分は、金銭では解決できない権利関係を保全するために利用されることが多いです。
仮差押えのように金銭を供託すれば解放できるわけではなく、特定の条件下でのみ解放金が設定されます。
「仮差押えと仮処分の違い」
目的:
- 仮差押えは「金銭債権」の保全。
- 仮処分は「特定の権利」や「物」に関する保全。
解決方法:
- 仮差押えは、債務者が仮差押解放金を供託することで解放される。
- 仮処分は、債権者の意見を聞いて裁判所が定めた場合のみ、仮処分解放金の供託により解放可能。
使用場面:
- 仮差押えは、金銭の支払いが争いの中心である場合(例:貸金債権)。
- 仮処分は、物の所有や地位に関する権利関係が争いの中心である場合(例:不動産の所有権、労働契約)。
以上のように、仮差押えと仮処分はそれぞれ異なる性質を持ち、異なる状況で使用されます。
どちらを選択するかは、具体的な争いの内容と目的に応じて決まります。
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