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家族信託が失敗する9つのパターン

家族信託が失敗する9つのパターン

 

 家族信託とは、老後に備え、不動産や預貯金などの財産を信頼する家族に託して管理・運用してもらう制度です。

 親が認知症になっても、受託者(子など)が生活費や介護費の支出、不動産の売却などを代行できるようになります。

 しかし、信託の設計や運用を間違えると、家族関係の悪化や税務リスク、制度の誤解など、様々な問題が発生します。

 以下に、家族信託で起こりがちな9つの失敗パターンをご紹介します。

 

1. 親族仲が悪化する

 受託者が他の相続人に説明や相談をせずに家族信託を進めてしまうと、不信感や対立を招きます。

 財産の名義が変わることや承継先が決まることに、知らされていない家族が不満を持つことも。

 実際に、姉が父親と契約を交わした家族信託に、同居していた弟が納得せず、契約を解消するケースもありました。

 信託は家族全体での合意形成が重要です。

 

2. 信託できない財産を対象にしてしまう

 家族信託には対象にできない財産があります。

 たとえば「農地」や「預貯金口座の名義そのもの」は信託できません。

 農地には農地法の制限があり、預金口座には譲渡禁止特約が付いているためです。

 ただし、口座の中の「お金」自体は信託可能であり、信託契約後に受託者名義の口座へ送金することで運用はできます。

 

3. 高額な税金が発生する

 信託財産の受益者を孫など第三者にすると「他益信託」となり、贈与税の対象になることがあります。

 また、不動産を信託した場合、将来の信託終了時に発生する登録免許税が、契約内容によって税率5倍になることもあります。

 信託設計時に税務の確認は必須です。

 

4. 「1年ルール」で信託が強制終了

 親の死亡後、子が「受託者=受益者」となると、その状態が1年続くことで信託は法律上自動的に終了してしまいます。

 これは「1年ルール」と呼ばれ、意図せず信託が終わってしまう原因になります。

 第二受託者をあらかじめ指定しておくなど、事前の設計が不可欠です。

 

5. 認知症が進んで契約できなくなる

 信託契約は意思能力があるうちでないと締結できません。

 準備に時間がかかる場合や家族間での調整が進まない間に認知症が進行すると、契約自体ができなくなるリスクがあります。

 家族信託は「早めの準備」が最大の対策です。

 

6. 自作の契約書でトラブルに

 インターネットの雛形で作成した契約書に不備があると、信託が機能しなかったり、将来のトラブルに発展することがあります。

 たとえば「父親の死亡で終了」とある契約書に「次の受益者の指定」が書かれているような矛盾です。

 契約は専門家に依頼すべきです。

 

7. 遺留分トラブルが起きる

 家族信託は相続対策にも使えますが、承継割合に偏りがあると遺留分侵害額請求のリスクがあります。

 相続人から金銭の請求が来る可能性があるため、事前に家族会議を行い、遺留分相当額を用意する設計をするなどの対策が必要です。

 

8. 経験のない専門家に依頼して失敗

 信託契約は締結して終わりではなく、長期にわたる運用が前提です。

 経験の浅い専門家では、トラブル時の対応や将来を見越した契約設計が不十分な場合があります。

 信託実績のある専門家に依頼することが成功のカギです。

 

9. 損益通算ができなくなる

 アパート経営をしている場合、家族信託を行うと損益通算(赤字と黒字の相殺)ができなくなることがあります。

 信託した物件の赤字は「ゼロ」とみなされ、他の収益不動産と通算できず、所得税が増えるリスクがあります。

 大規模修繕を予定している人は慎重な信託設計が必要です。

 

まとめ

 家族信託は認知症や相続対策として有効な制度ですが、制度への理解不足や準備の不備によって大きなリスクを抱える可能性もあります。

 信託設計は信頼できる専門家と相談しながら進めることが重要です。

 失敗しないためには、家族全体での情報共有と早めの対策が何よりも大切です。