「成年後見制度には使いづらい面もある」
認知症の家族がいる場合、遺産分割協議を行うために成年後見制度を利用することになりますが、この制度にも使いづらさが多く指摘されています。
1. 親族以外の専門家が選ばれる可能性が高い
成年後見制度では、誰が後見人になるかは家庭裁判所が決定します。
近年は、親族よりも弁護士や司法書士などの専門家が選ばれる割合が増加しています。
令和4年の統計によると、親族が後見人に選ばれた割合は19.1%、残りの約81%が専門家でした。
親族が申し立てても、専門家が後見人に選ばれる可能性が高く、お母さんの財産管理や施設の選定などを家族で自由に決められなくなることがあります。
2. 後見人には報酬が発生する
専門家が後見人に選ばれた場合、月額2万円〜6万円程度の報酬が発生します。
後見制度は原則として被後見人(認知症の方)が亡くなるまで継続されるため、費用負担が長期化するリスクがあります。
3. 後見人は家族の希望どおりに動かないことがある
後見人の役割は「本人の財産を守ること」にあります。
そのため、たとえば子どもが「母の取り分を減らし、自分たちが多く相続したい」と希望しても、後見人は法定相続分を厳格に守ろうとするため、希望どおりにはならないことが多いです。
l 法定相続分で分けることにも問題がある
認知症の家族がいる場合、「法定相続分でそのまま分けてしまえばいい」と考える方もいます。
しかし、実際には複数の問題が生じる可能性があります。
1. 不動産が共有になると動かせない
法定相続分で相続登記を行うと、たとえば不動産が「子どもと認知症の母親の共有」になります。
共有不動産は売却や賃貸などをする場合に共有者全員の同意が必要であり、認知症の人が含まれていると動かすことができません。
そのため、結局は成年後見制度を利用して後見人をつける必要が出てきます。
2. 預貯金の仮払いにも上限がある
預貯金についても、遺産分割協議ができなければ原則として法定相続分だけの払い戻しはできません。
ただし、「仮払い制度」により、「150万円」または「預貯金残高×1/3×法定相続分」のいずれか少ない額までは引き出すことが可能です。
それ以上の払い戻しには、やはり正式な遺産分割協議や家庭裁判所の関与が必要です。
3. 相続税の特例が使えない
「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」などの相続税を軽減できる制度も、遺産分割協議が成立していなければ利用できません。
結果として、本来抑えられるはずの相続税が高額になってしまう恐れがあります。
まとめ
成年後見制度は認知症の家族がいる場合の有効な手段ですが、費用・時間・自由度の面で多くの制約がある制度です。
また、「法定相続分で分ければいい」と簡単に考えると、不動産の活用ができなかったり、相続税の負担が重くなったりする可能性があります。
こうしたリスクを避けるには、早めの家族信託や任意後見契約の活用、また専門家への相談が不可欠です。家族が元気なうちに、話し合いと準備を始めることが、将来の安心につながります。
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