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認知症の人が相続人になる問題点

認知症の人が相続人になる問題点

 お父さんが亡くなり、相続人が認知症のお母さんと子どもたちというケースは、少子高齢化が進む中で珍しくありません。

 しかし、相続人に認知症の方が含まれると、相続手続きに重大な支障が出ることがあります。

 

1. 遺産分割協議ができなくなる

 人が亡くなると、その財産(預貯金や不動産など)は一時的に凍結されます

 凍結を解除し、相続人が財産を受け取るには、相続人全員による「遺産分割協議」の成立が必要です。

 しかし、相続人の中に認知症の人がいる場合、判断能力が不十分で意思表示ができないと、協議に参加できません。

 このため、遺産分割協議自体が成立せず、凍結されたままの財産が引き出せなかったり、不動産が売却できなかったりといった問題が発生します。

 

2. 代筆は無効、法的リスクも

 認知症の方に代わって他の家族が協議書へ署名・押印することは法律上無効であり、文書偽造に該当する可能性もあるため絶対に避けるべきです。

 たとえ善意であっても、後にトラブルとなり、相続手続きが無効になるリスクがあります。

 

3. 相続放棄もできない

 認知症の相続人が「相続放棄」を選択することも、判断能力の制限によりできません。

 相続放棄も本人の意思に基づく法的行為であるため、他の家族が代わりに申請することは認められておらず、家庭裁判所も受理しません。

  •  成年後見制度で対応する

 認知症の相続人がいても、遺産分割協議を行う方法が一つだけあります。

 それが成年後見制度の利用です。

 成年後見制度では、家庭裁判所が認知症の方の「成年後見人」を選任し、その後見人が法的代理人として財産の管理や契約行為を行います。

 相続手続きにおいても、後見人が代理人として協議に参加でき、遺産分割協議や相続放棄を進めることが可能になります。

 もしお父さんが亡くなる前からお母さんに後見人がついていれば、スムーズに協議に移れますが、相続発生後に後見人の申立てを行う場合は1~3か月程度かかるのが一般的です。

 

 相続税の申告期限は「相続開始から10か月以内」ですので、できるだけ早めに手続きを進めることが重要です。

 

まとめ

 相続人に認知症の方が含まれると、遺産分割協議が進まず、相続手続き全体がストップしてしまいます。

 勝手な署名や相続放棄は無効であり、成年後見制度の活用が不可欠です。

 相続が発生する前から制度を理解し、必要に応じて準備しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。