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認知症の家族がいるときの生前対策

認知症の家族がいるときの生前対策

 

 相続人の中に認知症の方がいると、遺産分割協議が進められず、相続手続きが滞ることがあります。

 特に今後は「お父さんの相続発生時にお母さんが認知症」というケースが増えてくるでしょう。

 そうした事態を防ぐために、お父さんが元気なうちにできる対策を紹介します。

 

1. 遺言書を作成する

 最もシンプルな対策が、お父さん自身が遺言書を残すことです。

 遺言により「誰に何を相続させるか」が明記されていれば、遺産分割協議をせずとも不動産や預貯金の凍結を解除し、相続手続きが可能になります。

 ただし、遺言書は本人の判断能力が必要なため、元気なうちに公正証書遺言として作成するのが安全です。

 万が一、作成時の認知症が問題視された場合に備え、医師の診断書を残しておくと安心です。

 

2. 家族信託を活用する

 もう一つの有効な方法が「家族信託」です。

 父と子の間で信託契約を結び、財産を信託財産として管理・承継する仕組みを整えておけば、相続発生後も遺産分割協議を必要とせず、信託契約に基づいて子が財産の処分や運用を行うことができます。

 家族信託は、認知症リスクへの備えや柔軟な資産承継の設計が可能な点が魅力です。

 ただし、契約書の作成には専門知識が必要なため、司法書士など専門家の支援が不可欠です。

 

3. 生前贈与の活用

 不動産や預貯金などを生前に子どもに贈与する方法もあります。

 贈与後は相続財産から除外されるため、遺産分割を避けることができます。

 ただし、贈与税の非課税枠(年間110万円)を超えると贈与税がかかるため、複数年にわたる計画的な贈与や、専門家との相談が必要です。

 

4. 認知症だった方の遺言の注意点

 亡くなったお父さんが遺言を残していた場合でも、「認知症の診断を受けていた」という理由で無効と主張されることがあります。

 たとえば、長男に財産を集中させる内容の遺言に納得できない次男が、「遺言時に父は認知症だった」と訴えるケースです。

 こうしたトラブルを防ぐために、遺言作成時には医師の診断書や公正証書遺言を利用するなど、客観的な証拠を残しておくことが重要です。

 なお、成年後見制度を利用していても、医師2人以上の立ち合いで遺言を作成することは可能です。

 

5. よくある質問


Q. 認知症=協議不可能?
 認知症と診断されていても、判断能力が軽度であれば遺産分割協議に参加できることがあります。

 判断材料として医師の診断書が有効です。


Q. 特別代理人とは?
 成年後見人が相続人と利益相反になる場合、家庭裁判所により「特別代理人」が選任され、協議を進めます。報酬も一度きりで済みます。


Q. 相談先は?
 遺言や信託の作成は司法書士や弁護士、生前対策全般は行政書士も対応可能です。

 税務が絡む場合は税理士へ相談しましょう。

 

6. まとめ:

「とりあえず遺言」をおすすめ

 最近では「とりあえず遺言を残す」ことが勧められています。

 遺言があれば、家族は遺産分割協議なしで相続手続きを進めることができるためです。

 内容が変わったら書き直せば良いので、気軽に準備を始めることが肝心です。

 認知症リスクを見据え、家族に迷惑をかけない生前対策を心がけましょう。