土砂災害特別警戒区域に指定された住宅への支援・規制と区域指定に関する実務対応
土砂災害特別警戒区域に指定された地域では、住民の安全を守るためのさまざまな支援策や規制が設けられている。
まず支援制度として、住宅金融支援機構による融資がある。
これは、特別警戒区域からの移転勧告を受けた住民が、新たな土地取得や代替住宅を建設する際の資金を、優遇金利で借りることができる制度である。
また、住宅・建築物安全ストック形成事業による補助もあり、特別警戒区域内の既存不適格住宅を撤去し、新たに建築する費用の一部が補助される。
ただし、自治体によってはこの制度を実施していない場合もある。
宅地建物取引においては、区域内にある土地の広告や契約は、知事の許可を得た後でなければ行えず、宅地建物取引業者には「特定開発行為の許可」について買主に説明する法的義務が課せられている(宅建業法第35条など)。
区域の指定は、土砂災害危険箇所の基礎調査に基づき行われる。
この調査は、過去の災害履歴に関係なく、地形や地質、水の流れ等をもとに土石流、急傾斜地の崩壊、地すべりといった現象に応じて危険を判定する。
指定区域は1/2,500の平面図で公示され、インターネットや自治体窓口で閲覧できるが、正確な取引書類として利用するには役所で正式な図面を取得する必要がある。
市街化区域内の宅地であっても、区域外からの土砂による被害(もらい災害)により指定されることがある。
既存不適格住宅について、指定直後に移転勧告がなされるわけではなく、あくまで所有者の自主的対応を促す措置である。
なお、土砂災害危険箇所は法的規制のない参考情報であり、指定区域とは異なる。
指定区域では建築物の構造や開発に厳しい規制が設けられる一方、土砂災害 危険箇所は1/25,000図による広域的なリスク表示にとどまる。
実際、広島市で発生した平成26年8月豪雨では、警戒区域指定の遅れや住民への情報伝達不足が被害を拡大させた。
これは、指定により土地の資産価値が下がることを懸念する住民の反対も一因とされる。
特別警戒区域内の不動産は、構造規制や建築制限があることから価値が下がる傾向にあり、買主も敬遠する。現在、政府は「コンパクトシティ」政策により居住誘導区域を指定しているが、土砂災害特別警戒区域は原則として含まれず、今後の都市政策においても不動産価値の差が生じると考えられる。
なお、区域の見直しは5年ごとに行われ、対策工事や自然条件の変化によって特別警戒区域は解除されることもあるが、警戒区域については基本的に変更されない。
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